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鑑定会社M&Aの基礎読了 約8

地方の鑑定事務所は誰が継ぐのか?知事登録業者の鑑定士▲13%が示す現実と、承継の3つの現実的な選択肢

知事登録業者に所属する鑑定士は平成23年から令和6年で約13%減り、大臣登録業者の約3.4%減を大きく上回ります。地方の鑑定事務所に固有の事情(公的評価比率の高さ、買い手候補の少なさ、地元金融機関との関係)を踏まえ、同県の勤務鑑定士への承継、隣県鑑定会社のサテライト化、不動産会社による内製化という3つの選択肢を比較します。

「この県で鑑定士を探しても、うちを継げる人はいない」。地方でひとり事務所を営む鑑定士から、こうした声を聞くことがあります。都市部であれば勤務鑑定士や同業の鑑定会社が買い手候補になりますが、地方では候補そのものが見つからない。それが地方の承継問題の本質です。

この記事では、私たち鑑定士の立場から、まず国土交通省のデータで地方の減少を確認し、地方の鑑定事務所に固有の事情を整理したうえで、承継の現実的な選択肢を3つ比較します。「継ぐ人がいない」は、探し方を変えれば「まだ探していない」に変わる可能性があります。

データが示す地方の減少

知事登録業者の鑑定士は▲13%、大臣登録は▲3.4%

不動産鑑定業者に所属する不動産鑑定士等は、平成23年の5,057名から令和6年には4,496名へと561名・約11%減少しました。内訳を見ると、大臣登録業者(2以上の都道府県に事務所を置く業者)に所属する鑑定士は990名で▲3.4%にとどまる一方、知事登録業者(1都道府県のみに事務所を置く業者)に所属する鑑定士は3,506名で▲13%と、減少幅に大きな差があります(出典:国土交通省 地価調査課「業務領域の拡大等を通じた不動産鑑定士の担い手確保に向けて〜論点整理〜」令和7年3月24日)。

知事登録業者は地方の個人事務所や小規模法人が中心です。大臣登録の大手が都市部で人員を維持する一方、地方の小規模事務所から鑑定士が減っている。このデータは、地方の承継問題が個別の事務所の事情ではなく、構造的なものであることを示しています。

地価公示評価員の高齢化と地方への影響

地価公示鑑定評価員は令和6年に2,264名で、平成29年の2,477名から約8.6%減少しました。年代別では50代が29.7%から43.4%に増え、30代は4.5%から1.6%、40代は33.7%から21.2%に減っています(出典:同上)。

地方では、ひとりの評価員が担当する地点数が多く、代替できる鑑定士が近隣にいないことも珍しくありません。評価員が引退すれば、その地点は隣接地域の評価員が兼務するか、県外の鑑定士が担うことになります。業界全体の動向は「不動産鑑定業界の高齢化をデータで読む」で整理しています。

地方の鑑定事務所に固有の3つの事情

事情1:公的評価の比率が高い

地方の鑑定事務所では、地価公示・地価調査、固定資産税評価、相続税路線価の精通者意見、競売評価といった公的評価が売上の半分以上を占めることが多くあります。公的評価は安定収入である反面、地価公示評価員は個人に委嘱され、固定資産税評価は自治体との契約、競売評価は裁判所の選任と、承継の仕組みがそれぞれ異なります。

つまり、地方の事務所ほど「引き継げるかどうかが個別確認になる売上」の比率が高く、後継者が公的評価を引き継げるかどうかで事務所の価値が大きく変わります。承継可否の考え方は「公的評価は引き継げるのか」をご覧ください。

事情2:買い手候補が少ない

都市部では、独立を考える勤務鑑定士、拠点拡大を狙う中堅鑑定会社、鑑定機能を持ちたい不動産会社と、買い手候補が層をなしています。地方では、同県内の鑑定士が数十名、勤務鑑定士はさらに少ないという県も多く、県内だけで探すと候補は数名に絞られます。

ただし、これは「県内で探す」という前提を置いた場合の話です。隣県の鑑定会社、都市部から地方進出を狙う鑑定会社、地元の不動産会社や士業法人まで視野を広げると、候補は変わってきます。買い手の探し方を変えることが、地方の承継の第一歩です。

事情3:地元金融機関との関係が事務所の価値そのもの

地方の鑑定事務所の民間案件は、地銀・信金・信組からの担保評価が中核であることが多いです。この関係は「県内で顔が見える鑑定士」であることに支えられており、代表個人と支店長・審査部との長年の付き合いが土台になっています。

買い手から見ると、この関係は最も価値が高く、同時に最も引き継ぎにくい資産です。代表が並走して紹介しなければ移りません。逆に言えば、地元金融機関との関係を丁寧に引き継げる形を設計できれば、地方の事務所は買い手にとって魅力的な「地域の入口」になります。

承継の現実的な3つの選択肢

選択肢1:同県の勤務鑑定士への承継

同県内の鑑定会社や金融機関・不動産会社に勤める鑑定士で、独立を考えている人に事務所を渡す形です。地域の土地勘があり、公的評価の分科会でも顔が知られている可能性が高いため、引継ぎの摩擦は最も小さくなります。

想定されるケースとして、地方都市の鑑定士1名の個人事務所(代表70代、地価公示評価員と固定資産税評価を受託、売上約1,500万円)を、独立を希望する40代の勤務鑑定士が事業譲渡で引き継ぎ、旧代表が2年並走する形が考えられます。買い手側にとっても、開業費用や顧客開拓の期間を省いて独立できる利点があります。勤務鑑定士側の視点は「独立するなら開業一択は本当か」で整理しています。

課題は、候補者が少なく、独立資金の手当ても必要になる点です。対価を分割払いや並走期間中の役員報酬と組み合わせるなど、資金面の設計で解決できる場合があります。

選択肢2:隣県・都市部の鑑定会社による「サテライト化」

隣県や都市部の鑑定会社が、あなたの事務所を買収して支所(サテライト事務所)とする形です。買い手側は、新たな県での鑑定業者登録や事務所開設の手間を省きつつ、地域の顧客と公的評価の実績を取り込めます。

法的な整理として、買い手が他県に本店を置く場合、あなたの事務所を加えると2以上の都道府県に事務所を置くことになり、大臣登録が必要になります(第22条)。また事務所ごとに専任の不動産鑑定士を置く必要があるため(第35条)、あなたか、買い手が派遣する鑑定士か、誰が専任になるかを最初に決めなければなりません。株式譲渡なら法人格が続くため、あなたの法人の知事登録は維持され、買い手のグループ会社として運営する形も選べます。

サテライト化の利点は、買い手側の人員で業務を支えられるため、あなたが完全に引退した後も事務所が地域に残る点です。課題は、買い手の鑑定士が常駐しなければ地元金融機関との関係が薄まりやすい点で、常駐体制と並走期間の設計が要になります。

選択肢3:地元の不動産会社・士業法人による内製化

地元の不動産会社、税理士法人、司法書士法人などが、鑑定機能を社内に持つために事務所を取得する形です。買い手が鑑定士でなくても、専任の鑑定士を置けば鑑定業者登録は可能です(第35条)。

想定されるケースとして、地元の不動産会社が鑑定士2名の法人を株式譲渡で取得する場合、専任鑑定士要件を満たすために鑑定士2名の残留が最重要条件になります。ただし、鑑定評価は依頼者との利害関係がある場合に独立性が問われるため、親会社となる不動産会社のグループ内案件の受任には注意が必要です。この論点は「鑑定士でなくても鑑定会社は買えるのか」で詳しく整理しています。

3つの選択肢の比較

観点同県の勤務鑑定士隣県鑑定会社のサテライト化不動産会社・士業法人の内製化
候補の見つけやすさ少ない中程度地域により多い
公的評価の引継ぎしやすい(地域の顔)常駐体制次第専任鑑定士の残留次第
地元金融機関との関係引き継ぎやすい常駐と並走が必要独立性への配慮が必要
対価の目安資金力に制約比較的柔軟比較的柔軟
引退後に事務所が地域に残るか残る残る残る(形は変わる)

いずれの選択肢でも、価格は年買法(純資産に営業利益の1〜3年分を加えて見積もる方法)を目安に、公的評価の承継可否と属人性の程度で幅が出ます。あくまで案件によるレンジであることをご承知ください。

地方の承継で先に手を打つべきこと

「県外」を含めて候補を探す段取り

地方の承継が難しい最大の理由は、候補を県内だけで探していることです。隣県の鑑定会社や都市部の中堅鑑定会社は、地方の拠点を探していても、どの事務所が承継を考えているかを知る手段がありません。逆に、あなたも県外の買い手のニーズを知る手段がありません。この情報の空白を埋めるのが仲介の役割です。当社では買い手側の「買収ニーズ登録」を受け付けており、地域・規模・公的評価の有無といった条件で照合します。

公的評価と金融機関の「引継ぎ計画」を先に作る

買い手が誰であっても、地方の事務所の価値は公的評価と地元金融機関との関係に集約されます。この2つについて、「誰に、どの年度サイクルで、どのように紹介していくか」の計画を、買い手探しの前に作っておくと交渉が速くなります。固定資産税評価替えの3年サイクルに合わせて引継ぎ時期を決めるのが実務上は自然です。

ポイント

地方の事務所は「小さいから売れない」のではなく、「地域に代わりがいないから価値がある」と見ることもできます。狭い業界で情報を守りながら県外の候補にあたる方法は「売却を誰にも知られずに進められるか」をご覧ください。

まとめ

  • 知事登録業者所属の鑑定士は▲13%と、大臣登録の▲3.4%を大きく上回る減少で、地方の承継問題は構造的です
  • 地方の事務所は公的評価比率が高く、買い手候補が少なく、地元金融機関との関係が価値の中核です
  • 選択肢は「同県の勤務鑑定士」「隣県鑑定会社のサテライト化」「不動産会社・士業法人の内製化」の3つで、いずれも事務所を地域に残せます
  • 県内だけで探さず、公的評価と金融機関の引継ぎ計画を先に作ることが承継の近道です

「この県では継ぐ人がいない」と決める前に、県外を含めた候補の有無を確かめてみませんか。「事業承継・後継者不在のご相談」をご覧のうえ、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。無料相談はこちら

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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の案件に対する助言ではありません。記載の価格・相場は目安であり、実際の譲渡価額は個別の交渉により決まります。税務・法務の具体的な判断は、税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
吉田 健人

執筆者

吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士

外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。

不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士

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