事業承継・M&A補助金で仲介手数料はいくら戻るのか?鑑定会社のM&Aで専門家活用枠を使う条件と順番
事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)では、登録支援機関に払う仲介手数料が補助対象になり得ます。16次公募の補助率・上限、当社手数料での試算、相見積と「3期決算」の要件、交付決定後に契約する順番を、鑑定会社のM&Aに即して鑑定士が整理します。
「事業承継・M&A補助金を使えば、仲介手数料の3分の2が戻ると聞いた」。鑑定会社の買収や売却を考える方から、こうした期待を聞くことがあります。半分は正しく、半分は危うい理解です。補助金は確かに仲介手数料を対象にしています。しかし、契約の順番を一つ間違えるだけで、1円も出なくなります。
結論から申し上げます。事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)では、中小企業庁「M&A支援機関登録制度」に登録された仲介業者に払う手数料が、補助対象経費になり得ます。ただし、交付決定の後に仲介契約を結ぶこと、法人なら3期分の決算を終えていること、原則として2者以上の見積を取ること、この3点を外すと対象になりません。
ここでは、16次公募の公募要領(2026年9月)をもとに、鑑定会社のM&Aでこの補助金を使うときの条件と順番を、私たち鑑定士の視点で整理します。補助金は公募回ごとに条件が変わります。申請の前には必ず最新の公募要領をご確認ください。
事業承継・M&A補助金の専門家活用枠とは
買い手支援類型と売り手支援類型
事業承継・M&A補助金は、中小企業の事業再編・事業統合を後押しする中小企業庁の補助金です。そのうち専門家活用枠は、M&Aで専門家に支払う費用を補助する枠で、譲り受ける側の「買い手支援類型(Ⅰ型)」と、譲り渡す側の「売り手支援類型(Ⅱ型)」に分かれます。従業員の少ない事業者向けには、補助上限を450万円とする「小規模売り手支援類型」も別に設けられています。
補助対象経費は、謝金・旅費・外注費・委託費・システム利用料・保険料などです。仲介手数料は委託費に当たり、デューデリジェンス(買収監査。対象会社の財務・法務・業務の実態を調べる手続)の費用もここに入ります。
仲介手数料は登録支援機関に払ったものだけが対象
16次公募の公募要領は、FA・M&A仲介費用について、M&A支援機関登録制度に登録された業者によるものだけを補助対象経費とすると定めています。登録の有無は交付決定の時点で確認されます。登録のない会社に払った手数料は対象になりません。
当社は2026年10月20日に、同制度の登録支援機関(仲介業務)として中小企業庁から公表されました。登録制度の仕組みや、相手が登録しているかを調べる方法は、仲介会社はどう選べばよいのか で詳しく扱っています。
補助額はいくらか:16次公募の補助率と上限
類型ごとの補助率・上限
16次公募の主な条件は次のとおりです。補助金は後払いで、補助事業が終わって経費を精算した後に支払われます。
| 類型 | 補助率 | 補助上限 | 補助下限 |
|---|---|---|---|
| 買い手支援類型 | 3分の2以内 | 600万円 | 50万円 |
| 売り手支援類型 | 2分の1以内(注) | 600万円 | 50万円 |
| 小規模売り手支援類型 | 3分の2以内 | 450万円 | なし |
(注)営業利益率が低下している、または直近の決算期の営業利益・経常利益が赤字の場合は3分の2以内です。買い手・売り手支援類型とも、デューデリジェンス費用を計上する場合は上限に200万円、廃業費を併せて申請する場合は300万円が加算されます。期間内にクロージング(株式や事業の引渡しと代金決済)まで至らなかった場合、上限は売り手支援類型で300万円、小規模売り手支援類型で50万円に変わり、対象経費も限られます。
想定されるケース:当社の手数料で試算する
当社の成功報酬は、譲渡価額2,000万円以下なら一律150万円、2,000万円を超える部分は1億円まで7%を加算します(税別)。これに補助率を当てはめると、補助額の上限の目安は次のようになります。消費税は補助の対象外です。
| 譲渡価額 | 当社の手数料 | 買い手(3分の2) | 売り手(2分の1) |
|---|---|---|---|
| 2,000万円以下 | 150万円 | 100万円 | 75万円 |
| 5,000万円 | 360万円 | 240万円 | 180万円 |
| 1億円 | 710万円 | 473万円 | 355万円 |
たとえば譲渡価額5,000万円の鑑定会社を法人が買う場合、買い手が払う手数料360万円のうち、最大240万円が補助される計算です。ただし、これは次に述べる見積の条件を満たし、審査を経て交付が決まった場合の上限です。
補助額の基礎は「いちばん低い見積」
見落とされやすいのが相見積(複数の業者から見積を取って比べること)の条件です。公募要領では、補助対象経費は原則として2者以上の見積が必要とされています。仲介費用については、見積額が公募要領に載っているレーマン表(譲渡額の5億円以下の部分に5%を掛ける、などの参照用の料率表)で計算した額以下であれば相見積は要りません。ただし、見積に最低報酬額が書かれている場合は相見積が求められます。
相見積を取った場合、補助額の基礎になるのは見積の中でいちばん低い価格です。つまり、他社の見積のほうが安ければ、その安い額に補助率を掛けることになります。上の表はあくまで「当社の見積がいちばん低い場合」の目安です。当社は最低報酬150万円を定めているため、補助金を使う案件では相見積が必要になります。そのための見積書は早めにお出しします。
鑑定会社のM&Aで補助金を使えない5つのケース
設立3期未満の法人、開業5年未満の個人
補助対象者になるには、法人の場合は申請時点で設立登記と3期分の決算・申告を終えていること、個人事業主の場合は開業届と青色申告承認申請書の提出から5年が経過していることが要件です。
ここは鑑定業界で特に引っかかりやすい点です。勤務鑑定士が独立と同時に法人を作り、既存の事務所を買う場合、その新しい法人では補助金を使えません。個人で開業して5年に満たない鑑定士も同じです。独立と承継を組み合わせる方法は 独立するなら開業一択は本当か で整理していますが、補助金を前提に資金計画を立てるなら、既存の法人で買う形も比べておくべきです。
交付決定の前に仲介契約を結んだ
公募要領は、交付決定通知を受け取った後に補助事業に着手する(専門家と委託契約を結ぶ)よう求めています。補助対象になるのは、交付決定日以降かつ補助事業期間の中で契約・発注し、支払いまで終えた経費だけです。
補助事業期間より前に仲介契約を結んでしまうと、その手数料は対象外です。期間の前に最終契約まで済ませてしまった場合も、覚書などで最終契約日を期間内にずらしても、原則として期間内の最終契約とはみなされません。
期間内に最終契約と支払いが終わらない
成功報酬が対象になるのは、補助事業期間の中で、仲介業者との契約、相手方との最終契約、そして成功報酬の支払いまでを終えた場合です。仲介契約書には「最終契約を結んだら成功報酬を払う」という支払いの時期が書かれている必要があります。当社の仲介契約書は、着手金・中間金がなく成功報酬だけの形で、この点に沿っています。
買い手が仲介業者自身やその関連会社である
M&A支援機関登録制度に登録された仲介業者や、その代表者が補助事業者になる場合、自社や関連会社を仲介の委託先にすることはできません。当社が自ら買い手になることはありませんが、同業の鑑定会社が仲介業も営んでいる場合は注意が必要です。
デューデリジェンスを実施しない
買い手支援類型では、費用を経費に計上するかどうかにかかわらず、デューデリジェンスの実施が求められます。鑑定会社の場合、決算書だけでは分からない項目、たとえば鑑定評価書の保存状況、専任の不動産鑑定士の確保、損害賠償のリスクなどの確認が中心になります。確認項目は 決算書だけで鑑定会社を買ってよいのか にまとめています。
申請から入金までの順番
16次公募のスケジュール
16次公募の申請受付は2026年10月2日から11月6日17時までです。事務局は、不備を直してもらうやり取りの時間を見込み、締切の5営業日前(10月29日)までの提出を勧めています。補助事業期間は2027年1月下旬(予定)から14か月以内です。
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| 準備 | GビズIDプライムの取得(1〜3週間)、見積書の取得 |
| 公募申請 | jGrantsで電子申請(16次は11月6日17時まで) |
| 採択・交付申請 | 採択後に交付申請し、交付決定通知を受け取る |
| 補助事業 | 仲介契約、デューデリジェンス、最終契約、クロージング、支払い |
| 実績報告・入金 | 証拠書類を出して精算した後に補助金が振り込まれる |
申請はご本人がjGrantsで行う
申請はGビズIDプライムを取得した事業者が、jGrants(国の補助金の電子申請システム)で行います。公募要領は、行政書士でない者が有償で申請書を作ることは行政書士法違反に当たる可能性があると注意しています。当社は申請書の作成を代わりに行うことはしません。仲介契約書を要件に合わせることや、実績報告に要る契約書・請求書・支払いの証拠をそろえることなど、仲介業者として必要な対応をします。
先に全額を払い、後から補助を受ける
補助金は精算払いです。手数料はいったん全額を払い、実績報告と審査を経てから補助金が振り込まれます。買収資金の計画では、補助金を当てにした借入額を組むのではなく、立替えができる前提で資金繰りを確認してください。資金の組み方は 買収資金は譲渡対価の1.5倍? で扱っています。
鑑定士の視点:補助金のために取引の時期を動かさない
補助事業期間と鑑定業の時期は別物
補助金を使うと、仲介契約は交付決定の後、最終契約と支払いは補助事業期間の中に収める必要があります。一方、鑑定会社のM&Aには鑑定業ならではの時期の制約があります。鑑定業者の登録は5年ごとの更新が必要で、地価公示などの公的評価にもそれぞれの年間の繁忙期があります。
たとえば、登録の更新日を挟んでクロージングすると、承継の手続が二重になることがあります(鑑定業者の登録更新とM&A 参照)。補助金の期間に合わせるために、こうした時期の判断をゆがめるのは本末転倒です。
補助金は条件が合えば使う、くらいがちょうどよい
補助金は審査を経て採択されるもので、必ず受けられるものではありません。私たちは、補助金がなくても成り立つ条件で取引を組み、期間と要件が合うなら使う、という順番をおすすめします。補助金を使うかどうかは、仲介契約の前、つまり最初のご相談の段階で決めておく必要があります。
まとめ
事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)は、鑑定会社のM&Aでも仲介手数料の負担を軽くできる制度です。ただし、効果を左右するのは補助率より、契約の順番と見積の取り方です。要点を振り返ります。
- 仲介手数料が補助対象になるのは、M&A支援機関登録制度に登録された業者に払ったものだけ
- 16次公募は買い手3分の2以内・上限600万円、売り手は原則2分の1以内(利益率低下・赤字なら3分の2)。補助額が50万円未満の申請はできない
- 原則として2者以上の見積が必要で、補助額の基礎は見積のうち最も低い価格。最低報酬を定めた仲介業者の見積では相見積が求められる
- 法人は3期分の決算、個人は開業から5年が要件。独立したばかりの鑑定士が新しい法人で買う場合は対象外
- 仲介契約は交付決定の後。最終契約と成功報酬の支払いまで補助事業期間内に終える
- 精算払いのため、手数料は先に全額を払う前提で資金繰りを組む
鑑定会社の買収や売却を考えていて、補助金を使えるかどうか迷っている買い手様・売り手様は、仲介契約を結ぶ前にご相談ください。当社は登録支援機関として、補助金の要件に沿った契約の時期と書類の準備をご一緒に確認します。鑑定会社の売却・買収・事業承継について、秘密厳守の無料相談を承っております。無料相談はこちら。当社の手数料体系は 手数料 に公開しています。
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鑑定業者の登録や専任の不動産鑑定士、公的評価の扱いまで含めた承継の全体像は鑑定会社のM&A・事業承継のページでまとめています。

執筆者
吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士
外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。
不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
鑑定会社の売却・買収・承継を、同業の鑑定士に相談する
相談無料・完全成功報酬・秘密厳守。会社名を伏せたままでも構いません。
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