仲介会社はどう選べばよいのか?M&A支援機関登録の調べ方と、専任契約の前に読む5条項
M&A支援機関登録制度は、中小M&Aガイドライン遵守を宣言した仲介会社・FAの登録制度です。登録支援機関データベースでの確認手順と、業務区分・手数料体系・支援実績という見るべき3項目、そして専任契約の前に読むべき5つの条項を鑑定士が整理します。
「知人の紹介で来たM&A会社に、その場で専任の契約書を出された」。鑑定事務所のオーナーから、こうしたご相談を受けることがあります。相手の会社名は聞いたことがない。手数料の説明は口頭だけ。それでも「今なら買い手がいます」と言われれば、気持ちは動きます。
しかし、仲介契約は一度署名すると簡単には抜けられません。専任条項で他社への相談が止まり、テール条項で契約終了後の直接交渉まで縛られます。鑑定業界は全国で3,398業者(令和7年1月1日現在、大臣登録・知事登録の計。出典: 国土交通省「不動産の鑑定評価に係る登録状況」)という狭い市場です。買い手候補はもともと限られており、一社に縛られた状態で半年を空費すれば、選択肢そのものが消えます。
幸い、仲介会社を選ぶための公的な手がかりは整備されています。中小企業庁の「M&A支援機関登録制度」です。ここでは、登録の有無を自分で確認する手順と、専任契約を結ぶ前に必ず読むべき5つの条項を、私たち鑑定士の視点で整理します。手数料の水準そのものについては 中小M&Aガイドラインで読む仲介契約前の8項目 で扱っているため、本稿は「どの会社と、どういう条件で組むか」に絞ります。
M&A支援機関登録制度とは何か
登録は「ガイドライン遵守を宣言した」という意味
M&A支援機関登録制度は、令和3年4月の「中小M&A推進計画」を受けて創設されました。中小企業に対してFA業務(フィナンシャル・アドバイザー業務=売り手または買い手の一方のみに助言する立場での支援)または仲介業務を行う者が対象で、登録には次の要件が課されます。
登録の要件として、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言すること、その宣言を自社のホームページに掲載すること(ホームページがない場合は会社概要等に追記して顧客に説明すること)、登録後の遵守事項を履行することを誓約すること、反社会的勢力に該当しないことなどが挙げられています(要旨)。
つまり登録とは、「中小M&Aガイドラインを守ると公に宣言し、その宣言を掲示している」という事実の登録です。加えて新規登録では「手数料体系報告フォーム」「支援業務報告フォーム」の提出が求められ、報告内容の一部は登録支援機関データベースで会社ごとに公表されます。手数料体系を国に報告し、公表に同意した会社だけが載っているのです。
登録がないと補助金の対象外になる
実務上もっとも直接的な効果は補助金です。中小企業庁の「事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)」では、FA業務・仲介業務に係る手数料は、あらかじめ登録された者によるもののみが補助対象とされています。登録のない仲介会社に支払った手数料は、補助金の対象になりません。
ただし同制度の資料では、デューデリジェンス(買い手が対象会社を精査する調査)のみを行う士業等専門家や、マッチングサイトの提供のみを行う事業者は登録の対象外とされ、これらの費用は登録の有無を問わず補助対象になり得ます。
登録は許認可ではない
誤解が多い点なので、はっきり申し上げます。**M&A支援機関登録は免許や許認可ではありません。**不動産鑑定業のように、登録がなければ業として行えない(不動産の鑑定評価に関する法律第22条)という性質のものではないのです。登録がなくてもM&A仲介業は行えますし、登録があるからといって支援の質が保証されるわけでもありません。
登録の価値は、「宣言した以上、守らなければ登録取消しという不利益がある」という規律にあります。令和7年8月5日には中小企業庁が「中小M&A市場改革プラン」を公表し、市場の健全性を高める方向性が示されました。制度は強化の途上にあり、登録の有無は合否判定ではなく「最低限の足切り」として使うのが実務的です。
登録の有無を5分で確認する方法
登録支援機関データベースで検索する
M&A支援機関登録制度の公式サイト(ma-shienkikan.go.jp)には「登録支援機関データベース」が設置されています。会社名を入力して検索するだけで、登録の有無が分かります。相談を受けた当日に、その場で確認してください。
確認のコツは、名刺の社名と完全に一致するかを見ることです。登録は原則として1事業者につき1登録とされ、グループ会社でもFA業務・仲介業務を行う会社ごとに登録が必要です。「親会社は登録しているが相談先の子会社は未登録」があり得ます。
データベースで見るべき3つの項目
登録の有無だけを見て終わらせるのは、もったいない使い方です。次の3点を確認してください。
| 確認項目 | 何が分かるか |
|---|---|
| 業務区分 | FA業務のみ・仲介業務のみ・両方のいずれで登録しているか |
| 手数料体系 | 国に報告した算定基準・料率・最低報酬。面談での説明と一致するか |
| 支援実績 | 成約件数や規模の傾向。小規模案件の経験があるか |
特に見ていただきたいのは、国に報告した手数料体系と、あなたが口頭で聞いた説明が一致しているかです。ずれていれば、その場で理由を尋ねてください。合理的な説明ができない相手と契約する理由はありません。
未登録の相手には相談してはいけないのか
そこまで言い切るつもりはありません。地元の税理士や金融機関、同業者からの紹介は鑑定業界では有力な経路であり、未登録でも誠実な支援者はいます。
ただし未登録の会社と契約する場合は、登録会社が国に報告している内容(手数料の算定基準・料率表・最低報酬・両手か片手か・支援実績)を書面で出してもらってください。相談先の全体像は 鑑定会社の売却は誰に相談すべきか で3つの窓口に整理しています。
専任と非専任、鑑定会社はどちらを選ぶべきか
専任条項の本質は「時間の拘束」
専任条項とは、契約期間中は他の仲介会社へ依頼・相談しないことを約束する条項です。仲介会社から見れば、手間をかけて買い手を探しても他社に先を越されては報われないため、一定の合理性はあります。
問題は期間です。中小M&Aガイドライン(第3版)は、専任条項を設ける場合の契約期間を最長でも6か月から1年以内を目安とすることを示しています。裏を返せば、自動更新で漫然と続く専任条項はガイドラインの想定外です。
鑑定会社の市場は狭い
一般の中小企業M&Aと鑑定会社のM&Aでは、市場の厚みが違います。買い手候補になり得るのは、拡大意欲のある鑑定会社、専任の不動産鑑定士を確保したい不動産会社・士業法人、独立を考える勤務鑑定士といった限られた層です。複数の仲介会社に同時に依頼しても、提示される候補先は重複しがちです。
そのうえ、狭い業界では非専任の副作用が大きく出ます。複数社が同じ候補先に打診すれば「あの事務所は売り急いでいる」という印象を与え、情報も漏れやすくなります。守秘の実務は 売却を誰にも知られずに進められるか で整理しています。
| 観点 | 専任 | 非専任 |
|---|---|---|
| 候補先の重複・情報漏えい | 起きにくい | 起きやすい |
| 仲介会社の注力度 | 高くなりやすい | 分散しやすい |
| 選択肢の確保 | 期間中は固定される | 比較しやすい |
想定されるケース: 期間で制御する
たとえば、年間売上3,000万円・鑑定士2名の事務所が、紹介を受けた仲介会社と契約する場面を考えます。非専任で複数社に投げる代わりに、専任期間を6か月に限定し、自動更新をなくし、期間満了後は他社へ切り替えられる形にする。そのうえで、契約前に他の1社から手数料と進め方の説明だけを受け、比較してから署名する。
これが実務的な落としどころだと私たちは考えています。ガイドラインは、意見を求めたい部分を明確にしたうえで妨げる合理的な理由がない場合には、他の支援機関へのセカンドオピニオンを求めることを許容すべきとしています(相手方に関する情報の開示禁止など、情報管理への配慮は前提です)。専任だからセカンドオピニオンは取れない、という理解は誤りだと断言します。
契約前に読む5条項
条項1: 専任条項(期間と更新)
確認するのは期間・自動更新の有無・セカンドオピニオンの可否の3点です。期間が1年を超える、自動更新が付いている、他の支援機関への相談を一律禁止している。いずれかがあれば修正を求めてください。応じない相手は、ガイドラインの目安を知ったうえで断っていることになります。
条項2: テール条項(期間と対象)
テール条項は、契約終了後に一定期間内、仲介会社が紹介した相手と直接取引した場合に手数料を支払う、という条項です。ガイドライン第3版は、テール期間を最長でも2年から3年以内を目安とし、対象は仲介会社が関与・接触した譲り受け側であって譲り渡し側に紹介された者のみに限定すべきとしています。ロングリストやノンネームシートの提示にとどまる段階の相手は対象とすべきでなく、少なくともネームクリア(実名開示)がなされ紹介された相手に限る、という整理です。
ここは鑑定会社のM&Aで特に効きます。買い手候補が限られるため、「以前から知っていた同業者」がリストに載ることが普通に起こるからです。契約前に「自分が既に接触している先」を書面で列挙し、テールの対象外とする合意を取っておくと、後の争いを避けられます。
条項3: 中途解約と費用負担
契約期間中に解約できるか、着手金・中間金が返金されるか、実費精算の範囲はどこまでか。着手金ゼロ・中間金ゼロの完全成功報酬なら解約時の金銭リスクは原則生じませんが、着手金を先に払う体系では解約条件の重みが跳ね上がります。
条項4: 手数料の算定基礎
同じ料率でも、基準額が「株式の譲渡対価」か「総資産・移動総資産(負債を含む)」かで金額はまったく変わります。役員借入金が残っている事務所では、負債を含む方式にすると手数料が跳ね上がります。料率表の読み方は 中小M&Aガイドラインで読む仲介契約前の8項目 に譲りますが、基準額の定義だけは契約書の文言で確認してください。
条項5: 秘密保持と相談の自由
見落とされがちですが、重要な条項です。M&A支援機関登録制度の要件では、登録を希望するFA・仲介業者は、秘密保持義務条項の規定内容にかかわらず、顧客となる中小企業者等による情報提供受付窓口への情報提供や、国が設置する事業承継・引継ぎ支援センター等への相談といった行動を制約しないこととされています。
したがって秘密保持条項が「第三者への一切の開示を禁ずる」という広い書きぶりの場合は、公的窓口への相談を除く旨の但書を求めてください。トラブルが生じた際は、同制度事務局の情報提供受付窓口や各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターに相談できます。
契約書は弁護士に、税務は税理士に
専任条項・テール条項・中途解約・秘密保持は、いずれも法律上の効力が問題になる条項です。署名前に弁護士にご確認ください。手数料の税務上の取扱い(譲渡費用への算入の可否など)は税理士にご確認ください。当社は中小M&Aガイドライン遵守を宣言し、専任条項を設けず、テール条項の期間は2年・対象は当社が紹介した候補先に限定し、依頼者はいつでも中途解約できる契約としています。詳細は 中小M&Aガイドライン遵守宣言 をご覧ください。
まとめ
仲介会社選びは、相性や熱意で決めるものではありません。公表情報と契約書の文言で確かめられる部分が、想像以上に多くあります。要点を振り返ります。
- M&A支援機関登録制度は、中小M&Aガイドライン遵守を宣言した者の登録制度。許認可ではないが、手数料体系と支援実績が公表されるため足切りに使える
- 事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)のFA・仲介手数料は、登録された者によるもののみが補助対象
- 登録支援機関データベースで社名を検索し、業務区分・手数料体系・支援実績の3点を確認する。未登録の相手には同等の情報を書面で求める
- 鑑定会社は買い手候補が限られるため、非専任より「期間を6か月に限定した専任」のほうが実務的。ガイドラインは専任期間の目安を最長6か月から1年以内としている
- 契約前に読むのは、専任条項・テール条項・中途解約・手数料の算定基礎・秘密保持と相談の自由の5つ。テールは2年から3年以内、対象はネームクリア済みの紹介先に限定が目安
後継者の当てがないまま時間だけが過ぎている事務所ほど、最初に声をかけてきた一社と専任契約を結んでしまいがちです。ですが、契約前の30分で確認できることを確認するだけで、その後の自由度はまったく変わります。オーナー鑑定士様、署名する前にぜひ一度ご相談ください。鑑定会社の売却・承継・買収について、秘密厳守の無料相談を承っております。無料相談はこちら。当社の手数料体系は 手数料 に公開しています。
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鑑定業者の登録や専任の不動産鑑定士、公的評価の扱いまで含めた承継の全体像は鑑定会社のM&A・事業承継のページでまとめています。

執筆者
吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士
外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。
不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
鑑定会社の売却・買収・承継を、同業の鑑定士に相談する
相談無料・完全成功報酬・秘密厳守。会社名を伏せたままでも構いません。
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