非上場の株式譲渡手続は何日かかるのか?鑑定会社で踏む5つの段取りと、古い会社ほど要注意の株券の罠
非上場の鑑定会社の株式譲渡手続きを、譲渡承認(会社法第145条のみなし承認2週間)・名義書換・役員変更登記・鑑定業者の変更の登録の5段階で整理。2006年5月以前設立の会社が株券発行会社とみなされる罠と、日程表・費用の計算例を鑑定士が示します。
非上場の鑑定会社を株式譲渡で引き継ぐとき、株式譲渡の手続きは具体的に何をどの順番で進めるのでしょうか。「譲渡承認は株主総会と取締役会のどちらで決めるのか」「株主名簿の書換は売り手と買い手のどちらが請求するのか」「うちは古い会社で株券を見たことがないが、そのまま譲渡してよいのか」。契約書の交渉に気を取られているうちに、こうした会社法上の段取りが後回しになり、クロージングの直前に慌てる例は少なくありません。
結論を先に申し上げます。株式譲渡の手続きは①譲渡承認、②譲渡契約と決済、③株主名簿の書換、④役員変更の登記、⑤鑑定業者の変更の登録、の5段階です。株券を発行しない会社であれば、承認から名義書換までは最短で同じ日に終えられます。一方、2006年5月より前に設立された鑑定会社は、定款に「株券を発行しない」と書いていない限り、株券を発行する会社という扱いです。この場合は株券を交付しない限り譲渡の効力そのものが生じないため、先に株券を廃止する手続(通知から効力発生まで2週間)を挟む必要があります。
この記事では、私たち鑑定士が売り手・買い手の双方から相談を受けるときに確認している5つの段取りを、会社法の条文と日数、かかる費用で整理します。手続の設計は司法書士・弁護士の領域に重なりますので、個別の案件では専門家に確認したうえで進めてください。
非上場の株式譲渡手続は5段階。先に全体の順番を押さえる
鑑定会社のほとんどは「譲渡制限会社」である
非上場の鑑定会社は、定款で「株式を譲渡により取得するには会社の承認を要する」と定めているのが通例です(会社法第107条第1項第1号)。登記事項証明書の「株式の譲渡制限に関する規定」の欄を見れば、自社がこれに当たるかはすぐに分かります。この定めがある会社の株式は、売り手と買い手が契約を結んだだけでは会社に対して株主としての権利を主張できず、会社の承認を経てはじめて名義書換まで進めます。
5つの段階と、それぞれの根拠・期限をまとめると次のとおりです。
| 段階 | 何をするか | 根拠 | 期限・日数 |
|---|---|---|---|
| ①譲渡承認 | 承認請求→株主総会(または取締役会)の決議→通知 | 会社法第136条・第139条・第145条 | 請求から2週間以内に通知。過ぎれば承認とみなす |
| ②契約・決済 | 株式譲渡契約の締結、代金の支払い、領収書 | 民法の売買契約 | 当事者が決める日 |
| ③名義書換 | 売り手と買い手が共同で株主名簿の書換を請求 | 会社法第130条・第133条 | 決済と同日が通例 |
| ④役員変更登記 | 旧代表の辞任・新役員の選任を登記 | 会社法第915条 | 変更から2週間以内 |
| ⑤変更の登録 | 役員・専任鑑定士・商号の変更を登録官庁へ | 不動産の鑑定評価に関する法律 | 遅滞なく |
株主が変わっても、鑑定業者の登録事項は変わらない
ここで鑑定業に固有の点を1つ補足します。鑑定業者の登録事項は商号、役員の氏名、事務所の名称と所在地、事務所ごとの専任の不動産鑑定士の氏名などで、「株主が誰か」は含まれていません。したがって株式が買い手に移っただけでは、登録官庁への手続は発生しません。手続が必要になるのは、株式譲渡に伴って代表者や役員が交代し、あるいは専任の不動産鑑定士が替わったときです。登録を承継する側の考え方は「鑑定業者登録はM&Aでどうなる?第22条・第35条・第29条から読む承継手続」で整理していますので、本記事では会社法上の段取りに絞って進めます。
①譲渡承認:株式譲渡の承認は株主総会か取締役会か
取締役会のない会社は株主総会、ある会社は取締役会
譲渡制限株式を譲り渡そうとする株主は、会社に対して「譲渡を承認するかどうかを決定せよ」と請求できます(会社法第136条)。株式を取得した側から請求する道もあります(同第137条第1項)。承認するかどうかを決めるのは、取締役会を置いていない会社では株主総会、取締役会設置会社では取締役会です。ただし定款で別の定めを置けるため(同第139条第1項)、「代表取締役が承認する」と定めている会社もあります。自社の定款の譲渡制限の条文を、まず読み直してください。
鑑定会社の多くは取締役1〜2名の取締役会非設置会社ですから、承認機関は株主総会になります。普通決議で足り(同第309条第1項)、株主全員が書面で同意すれば、実際に集まらなくても総会の決議があったものとみなされます(同第319条第1項)。実務では「株式譲渡承認請求書」「株主総会議事録(または書面決議の同意書)」「株式譲渡承認通知書」の3点を同じ日に作成することが大半です。
2週間以内に通知しなければ「承認したものとみなす」
会社は承認するかどうかを決めたら、請求した株主に決定の内容を通知しなければなりません(同第139条第2項)。請求の日から2週間以内に通知しなかった場合、会社は譲渡を承認したものとみなされます(同第145条第1号)。定款でこれより短い期間を定めることはできますが、長くすることはできません。
オーナー鑑定士が全株式を持ち、自分で承認する案件では、この2週間が問題になることはまずありません。注意したいのは、配偶者や元共同経営者など、売り手以外の株主がいる会社です。承認決議では譲渡人自身も議決権を行使できますが(議決権が制限されるのは、会社が自ら株式を買い取る決議の場面です。同第140条第3項)、少数株主との関係が良くない会社では、承認の前に名義株や分散株の整理が必要になります。この論点は「事務所を売ると家族に話すのはいつか?名義株・分散株の片づけ方」で扱いました。
一人会社では承認がなくても譲渡は有効とされる
株主が代表1人だけの「一人会社」については、最高裁平成5年3月30日判決が、承認機関の承認がなくても株式譲渡は会社との関係でも有効だと判断しています。譲渡制限は会社にとって好ましくない者が株主になることを防ぐための制度であり、唯一の株主が自ら譲渡する場合には保護すべき利益がない、という理由です。とはいえ買い手側の司法書士や金融機関は承認の書面を求めますので、一人会社であっても承認決議の書面は作っておくのが実務です。
②契約と決済、③名義書換:株式譲渡は「名簿」で完結する
株券不発行会社では、株主名簿の記載が会社と第三者への対抗要件
株券を発行していない会社では、株式の譲渡は当事者の合意で効力が生じ、買い手の氏名・名称と住所を株主名簿に記載しなければ、会社にも第三者にも株主であることを主張できません(会社法第130条第1項)。つまり株式譲渡のゴールは契約書の調印でも代金の着金でもなく、株主名簿の書換です。
名義書換の請求は、株式を取得した者が会社に対して行いますが、原則として株主名簿に載っている譲渡人と共同でしなければなりません(同第133条第1項・第2項)。実務では、売り手と買い手が連名で押印した「株主名簿書換請求書」を会社に差し入れ、会社が株主名簿を書き換えて、書換後の株主名簿の写しを買い手に交付します。小規模な鑑定会社では「株主名簿を作ったことがない」という例もありますが、会社法上は作成と本店への備置きが義務ですので(同第121条・第125条第1項)、この機会に設立時からの異動を整理して作り直します。
契約書に印紙は不要、領収書は200円
株式譲渡契約書は印紙税の課税文書に当たらないため、収入印紙は不要です。ただし譲渡代金を受け取ったことを契約書の中に記載すると、その部分が受取書として課税されます。代金の領収書は別に作るのが無難です。株式の譲渡代金の受取書は、有価証券の譲渡の対価が印紙税法上の「売上代金」から除かれているため、売上代金以外の受取書(第17号の2文書)として金額にかかわらず一律200円です(印紙税法別表第一第17号の定義欄、国税庁「印紙税の質疑応答事例」)。記載金額が5万円未満なら非課税です。
決済当日の持ち物は4つ
クロージング当日に会議室のテーブルに揃えるものは、株式譲渡契約書、株主総会議事録(承認決議)と承認通知書、株主名簿書換請求書、そして書換後の株主名簿の写しです。代金は振込で、着金確認後に名義書換を行い、同じ場で旧代表の辞任届と新役員の就任承諾書に署名押印して④へ進みます。「株式譲渡と事業譲渡、鑑定会社のM&Aではどちらを選ぶべきか」で触れたとおり、株式譲渡は契約や登録を会社ごと引き継げる反面、この名簿の書換までを確実に終えてはじめて「引き継いだ」と言えます。
④役員変更の登記と⑤鑑定業者の変更の登録
登記は2週間以内。登録免許税は資本金1億円以下で1万円
株式譲渡と同時に旧代表が退任し、買い手側から新しい代表取締役と取締役が就任するのが通例です。役員の選任は株主総会の普通決議ですので(会社法第329条第1項)、名義書換を終えた新株主がその場で臨時株主総会を開き、書面決議で選任します。役員の変更は、変更が生じた日から2週間以内に本店所在地で登記を申請しなければならず(同第915条第1項)、正当な理由なく怠ると代表者個人が100万円以下の過料の対象になります(同第976条第1号)。登録免許税は資本金1億円以下の会社であれば役員変更について1万円、1億円を超える会社では3万円です(登録免許税法別表第一第24号(一)カ)。
登記事項証明書が出てから、登録官庁へ「遅滞なく」
鑑定業者は、商号、役員の氏名、事務所、専任の不動産鑑定士の氏名といった登録事項に変更があったときは、遅滞なく登録官庁(国土交通大臣または都道府県知事)に変更の登録を申請しなければなりません。添付書類には新しい役員の登記事項証明書や略歴書、専任の不動産鑑定士が替わるときはその鑑定士の登録を証する書面などが求められますので、実務上は④の登記が完了して証明書が取れてから申請する流れになります。登記の完了までは申請から1〜2週間かかるのが一般的ですから、株式譲渡の実行日から数えて1か月前後は、登録官庁上は旧役員のままの期間が生じます。この間も鑑定業者の登録そのものは有効で、専任の不動産鑑定士が事務所に常勤している限り業務に支障はありません(不動産の鑑定評価に関する法律第35条)。この点が、承継の前後で登録の空白が生じ得る事業譲渡との大きな違いです。
古い会社ほど要注意:株券発行会社の株式譲渡は「株券の交付」が効力要件
2006年5月より前に設立した会社は、株券発行会社とみなされている
ここが本記事で最も強調したい点です。現在の会社法では株券を発行しないのが原則ですが、会社法が施行された2006年5月1日より前に設立された株式会社は、定款に「株券を発行しない」旨の定めを置いていない限り、「株券を発行する旨の定款の定めがあるものとみなす」とされました(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第76条第4項)。登記簿にも「株券を発行する旨の定め」が職権で記録されています。
地方の鑑定事務所には、平成の初めに法人化してから定款を一度も見直していない会社が珍しくありません。「株券なんて作ったことがない」会社であっても、法律上は株券発行会社です。そして株券発行会社の株式の譲渡は株券を交付しなければ効力を生じません(会社法第128条第1項)。株券が存在しないまま契約書に調印し、代金を払い、株主名簿を書き換えても、譲渡の効力そのものが生じていないという事態になり得ます。買い手側の司法書士が登記事項証明書を見て最初に確認するのがこの欄です。
対処法は2つ。実務では「株券を廃止してから譲渡」が一般的
対処法は2つあります。1つは株主の請求に基づいて会社が株券を発行し、それを買い手に交付する方法(同第215条第4項)、もう1つは株券を発行する旨の定款の定めを廃止し、株券不発行会社に変えてから譲渡する方法で、後者が一般的です。株券を印刷し、紛失のリスクを抱えたまま交付するより、先に廃止してしまう方が後の管理も簡単だからです。
廃止の手続は株主総会の特別決議で定款を変更し(同第466条・第309条第2項第11号)、効力発生日の2週間前までに株主に通知します。株券を1枚も発行していない会社では、公告は不要で株主への通知だけで足ります(同第218条第3項)。効力発生日に定款変更の効力が生じたら、2週間以内に「株券を発行する旨の定めの廃止」の登記を申請します。登録免許税は3万円です(登録免許税法別表第一第24号(一)ツ)。株主が代表1人なら、通知の日に「2週間後に効力発生」と定めれば、決議から効力発生まで最短で2週間です。
想定されるケース:1998年設立の鑑定会社を株式譲渡で引き継ぐ日程と費用
前提
数値と日付はすべて説明のための仮定です。
- 売り手:A不動産鑑定株式会社。1998年設立、資本金1,000万円、取締役会非設置、株主は代表鑑定士85%・配偶者15%。定款に株券に関する定めはなく、株券は未発行
- 買い手:隣県のB鑑定法人。譲渡価額2,000万円で基本合意済み
- 新体制:代表取締役はBの代表が就任し、Aの旧代表は非常勤の取締役として1年並走。専任の不動産鑑定士は当面、旧代表が継続
日程表
| 日付 | 手続 | 根拠・備考 |
|---|---|---|
| 11月4日 | 株券廃止の定款変更を書面決議、株主2名に通知 | 第218条第3項。効力発生日を11月19日と定める |
| 11月19日 | 定款変更の効力発生。廃止の登記を申請 | 第915条。登録免許税3万円 |
| 11月19日 | 譲渡承認請求、書面決議で承認、承認通知 | 第136条・第139条・第145条。同日で完結 |
| 11月25日 | 株式譲渡契約、代金2,000万円の振込、名義書換 | 第130条・第133条。領収書の印紙200円 |
| 11月25日 | 臨時株主総会で役員改選、辞任届・就任承諾書 | 第329条 |
| 12月8日 | 役員変更登記の申請期限 | 第915条。登録免許税1万円 |
| 12月中旬 | 登記完了、登記事項証明書の取得 | 申請から1〜2週間 |
| 12月下旬 | 登録官庁へ変更の登録を申請 | 役員の変更。遅滞なく |
日数と費用の計算
最初の決議から株式譲渡の実行日までが21日、登録官庁への申請までが約7週間です。もしA社が2006年以降に設立された株券不発行会社であれば、最初の2週間がまるごと不要になり、承認・契約・名義書換・役員改選を11月4日の1日で終えられます。つまり株券の問題だけで、クロージングが2週間以上後ろにずれます。
費用は、登録免許税が3万円+1万円=4万円、印紙が200円で、国に納める分は合計4万200円です。これに司法書士への報酬(定款変更と役員変更をあわせて、おおむね数万円から十数万円。事務所により異なります)が加わります。譲渡価額2,000万円に対する仲介手数料150万円や、株式譲渡所得に対する約20%の税金に比べれば、手続費用そのものは小さな額です。問題は金額ではなく、株券の欄を見落としたまま日程を組むと、買い手の融資実行日や旧代表の退任日、地価公示の分科会の日程まで連鎖してずれることにあります。株式譲渡を選ぶかどうかを決める段階で、登記事項証明書を1通取って「株券を発行する旨の定め」の欄を確かめておいてください。
まとめ
非上場の株式譲渡手続は譲渡承認、契約と決済、名義書換、役員変更の登記、鑑定業者の変更の登録の5段階で、株券不発行会社なら承認から役員改選まで1日で終えられます。ただし2006年5月より前に設立された会社は株券発行会社とみなされており、先に株券を廃止する2週間が必要です。
要点を振り返ります。
- 譲渡制限株式の承認機関は取締役会非設置会社では株主総会、設置会社では取締役会。定款で別の定めも可能(会社法第139条第1項)
- 承認請求から2週間以内に通知しなければ承認したものとみなされる(同第145条第1号)。一人会社では承認がなくても譲渡は有効(最高裁平成5年3月30日判決)だが、書面は作る
- 株券不発行会社では株主名簿の記載が会社・第三者への対抗要件で、名義書換は売り手と買い手の共同請求が原則(同第130条第1項・第133条第2項)
- 株式譲渡契約書に印紙は不要、代金の領収書は一律200円(印紙税法別表第一第17号の2)
- 役員変更の登記は2週間以内、登録免許税は資本金1億円以下で1万円。鑑定業者の変更の登録は登記完了後に遅滞なく。株主の変更だけでは登録の手続は不要
- 2006年5月より前に設立した会社は、定款に不発行の定めがなければ株券発行会社(整備法第76条第4項)。株券の交付がなければ譲渡の効力が生じないため(会社法第128条第1項)、先に廃止の手続(第218条、2週間)を組み込む
平成の初めに法人化してから定款を見直していないオーナー鑑定士の方、鑑定会社の株式を買い取ろうとしている鑑定法人・不動産会社の方、そして顧問先の株式譲渡を支援する税理士・司法書士の先生方へ。株式譲渡の段取りは契約書の文言より先に、登記事項証明書と定款と株主名簿の3点を机に並べることから始めてください。株券の欄と譲渡制限の欄を確かめるだけで、日程表の精度は大きく変わります。
鑑定会社の株式譲渡で、手続の順番や日程、承継後の専任鑑定士の配置を含めて設計を整理したい方は、秘密厳守の無料相談をご利用ください。「売却・承継をお考えの方へ」をご覧のうえ、ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。無料相談はこちら
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鑑定業者の登録や専任の不動産鑑定士、公的評価の扱いまで含めた承継の全体像は鑑定会社のM&A・事業承継のページでまとめています。

執筆者
吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士
外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。
不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
鑑定会社の売却・買収・承継を、同業の鑑定士に相談する
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