不動産鑑定業者の売上は平均745万円なのか?国交省の事業実績で読む事務所の実像
不動産鑑定業者の売上を国交省「事業実績」令和7年集計で整理。知事登録1業者平均745万円は地価公示・周辺業務を含まず、加えると約1,312万円です。件数の分布、1件当たり報酬による自社売上の確かめ方、買い手が見る公開データを鑑定士が解説します。
不動産鑑定業者の売上は、業界の外からはほとんど見えません。「うちの事務所の売上は多いのか少ないのか」「売却を考えるとき、何と比べればよいのか」。後継者のいないオーナー鑑定士の方にとっても、鑑定会社の譲受を検討する方にとっても、比較の物差しがないことが最初のつまずきになります。
結論から言えば、国土交通省が毎年公表している「不動産鑑定業者の事業実績」の集計を読むと、知事登録業者の1業者当たり報酬は令和7年(2025年)分で約745万円です。ただしこの数字には地価公示・地価調査や、固定資産の時点修正などの周辺業務が含まれていません。それらを足し合わせると、1業者当たりは約1,312万円になります。「平均745万円」をそのまま自社と比べると、判断を誤ります。
ここでは、私たち鑑定士が事業実績の全国集計と業者別の公表データを読み解き、不動産鑑定業者の売上の実像を示します。そのうえで、自社の売上の位置を確かめる方法と、M&Aの買い手が公開データから何を読み取っているかを整理します。
不動産鑑定業者の売上はどこで分かるのか
毎年の事業実績報告と、国土交通省の全国集計
不動産鑑定業者は、鑑定評価法(不動産の鑑定評価に関する法律)に基づき、毎年1回、前年1年間の事業実績の概要を登録行政庁に報告します。国土交通大臣登録の業者は毎年1月31日までが提出期限で、知事登録の業者は各都道府県の窓口に提出します。
国土交通省はこの報告を全国で集計し、ホームページ「不動産鑑定業者の事業実績」で過去5年分を公表しています。集計表は、過去5か年の推移(表1)、依頼目的別(表2・表3)、鑑定評価額別(表4)、依頼先別(表5)、周辺業務(表6・表7)、鑑定人等としての業務(表8)、再受託(表9)、公的土地評価(表10)に分かれています。業界の売上規模を一次資料で確かめられる、ほぼ唯一の統計です。
「業者別の件数」も公開されている
見落とされがちなのが、同じページで業者ごとの事業実績も公表されている点です。都道府県別・商号別に検索できるExcelファイルで、事務所ごとに次の項目が載っています。
- 鑑定評価・価格等調査(不動産鑑定評価基準に則らない価格の調査)の依頼目的別・評価額別・依頼先別の件数
- 賃料評価の件数と依頼先
- 地価公示・地価調査・固定資産税評価・相続税評価等の件数
- 所属する不動産鑑定士の人数
公表されるのは件数で、報酬額は業者別には出ていません。それでも、あなたの事務所が年に何件、どの依頼者から、どの目的の評価を受けているかは、誰でも見られる状態にあります。この点はM&Aの進め方に直結するため、後半で改めて扱います。
事業実績の全国集計で見る不動産鑑定業者の売上規模
知事登録と大臣登録で桁が違う
令和7年分の表1から、業者区分ごとの規模を整理します。表1の報酬額は、価格評価・賃料評価に固定資産税評価・相続税評価等を加えたものです。
| 区分 | 業者数 | 報酬総額 | 1業者平均 |
|---|---|---|---|
| 大臣登録 | 67 | 約293億円 | 約4億3,769万円 |
| 知事登録 | 2,933 | 約219億円 | 約745万円 |
| 合計 | 3,000 | 約512億円 | 約1,706万円 |
(国土交通省「不動産鑑定業者の事業実績」令和7年集計 表1。業者数は令和8年1月1日現在)
大臣登録業者(二以上の都道府県に事務所を持つ業者)は全体の2%強にすぎませんが、報酬では半分強を占めます。全体平均の約1,706万円は、ごく少数の大規模業者に引き上げられた数字です。地域で鑑定業を営む事務所の物差しには、知事登録業者の数字を使ってください。
表1に入っていない売上を足すと1業者約1,312万円
表1には、地価公示・地価調査、隣接・周辺業務、鑑定人等としての業務が含まれていません。知事登録業者について、これらを含めて報酬を積み上げると次のとおりです。
| 業務の区分 | 報酬額 | 構成比 |
|---|---|---|
| 鑑定評価基準に則った価格評価 | 約141.4億円 | 36.7% |
| 価格等調査(基準に則らない価格評価) | 約38.5億円 | 10.0% |
| 賃料評価 | 約17.4億円 | 4.5% |
| 固定資産税評価・相続税評価等 | 約21.2億円 | 5.5% |
| 地価公示・地価調査 | 約43.9億円 | 11.4% |
| 隣接・周辺業務 | 約93.4億円 | 24.3% |
| 鑑定人等としての業務 | 約29.0億円 | 7.5% |
| 合計 | 約384.8億円 | 100% |
(同 表2・表3・表6・表8・表10から当社集計。他の鑑定業者からの再受託は重複のおそれがあるため含めていません)
合計を知事登録業者2,933で割ると1業者当たり約1,312万円、所属する鑑定士等3,540人で割ると1人当たり約1,087万円です。隣接・周辺業務(固定資産の時点修正率の調査、課税の変動率の調査、補償関連の調査など)が4分の1を占める点は、外部の方にはあまり知られていません。地域の鑑定事務所は、鑑定評価書の作成だけでなく、行政から継続的に受ける調査業務で売上を支えているのです。
評価替えの年は売上が倍になる
表1の知事登録業者の報酬額を5年で並べると、波の大きさが分かります。
| 年 | 報酬額(表1) | 対前年 |
|---|---|---|
| 令和3年 | 約190億円 | ― |
| 令和4年 | 約199億円 | +4.8% |
| 令和5年 | 約394億円 | +98.2% |
| 令和6年 | 約203億円 | ▲48.6% |
| 令和7年 | 約219億円 | +7.9% |
令和5年は、令和6基準年度の固定資産税評価替えに向けた標準宅地の鑑定評価が集中した年にあたります。知事登録業者の売上は、評価替えの年にほぼ倍になり、翌年に元へ戻っています。次の評価替えは令和9基準年度で、その作業が走る令和8年(2026年)は再び山の年になります。評価替えのサイクルが価格算定に与える影響は、地価公示の評価員枠に値段はつくのかで詳しく扱っています。
平均ではなく分布で見る:知事登録事務所の件数
件数の中央値は46件、4事務所に1つは10件以下
平均値は大きな事務所に引っ張られます。そこで、業者別に公表されている令和7年分の件数を、当社で知事登録の2,950事務所について集計しました。件数は、価格評価(鑑定評価と価格等調査)、賃料評価、公的土地評価の合計で、隣接・周辺業務は含めていません。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 件数の中央値 | 46件 |
| 下位25%の境目 | 10件 |
| 上位25%の境目 | 71件 |
| 件数ゼロの事務所 | 360(12.2%) |
| 所属鑑定士が1名の事務所 | 2,552(86.5%) |
平均は約60件ですが、中央値は46件です。所属鑑定士が1名の事務所が9割近くを占め、地域の鑑定業は「鑑定士1名と事務職員」という形で成り立っていることが数字でも確かめられます。件数ゼロの事務所が1割強あるのは、開業直後の業者や、実質的に休業している業者が含まれるためと考えられます。
公的土地評価の比重が高い事務所が多数派
同じ集計で、公的土地評価(地価公示・地価調査・固定資産税評価・相続税評価等)を1件以上受けている事務所は1,975と、全体の約67%でした。件数が1件以上ある事務所のうち、公的土地評価が件数の過半を占める事務所は約62%です。
ただし、件数と売上は一致しません。後で見るとおり、公的土地評価の1件当たり報酬は民間の鑑定評価よりかなり低いため、件数の過半が公的評価でも、売上の過半は民間の鑑定評価という事務所は十分にありえます。件数だけで「公的評価頼みの事務所」と決めつけるのは早計です。
依頼目的と依頼先の構成
知事登録業者の鑑定評価(価格評価)の報酬を依頼目的別に見ると、売買44.6%、資産評価16.7%、補償15.5%、証券化8.4%、担保5.5%、その他5.0%、財務諸表(企業会計上の時価算定)4.2%です。依頼先別では、その他民間法人32.1%、地方公共団体等31.6%、不動産関連事業法人等13.4%、国・独立行政法人等9.7%、個人7.8%、金融機関5.4%でした(同 表2・表5)。
大臣登録業者は不動産関連事業法人等が62.6%、目的では証券化が52.7%を占めます。同じ鑑定業でも、知事登録の事務所は「地域の売買・行政・民間企業」、大臣登録の業者は「証券化と不動産会社」と、顧客の顔ぶれがまったく違います。M&Aで買い手が大手か地域の同業かによって、評価される売上の中身が変わるのはこのためです。
自社の売上の位置を確かめる方法
1件当たり報酬で売上を組み立て直す
自社の位置を確かめるには、売上総額を平均と比べるより、件数を業務区分ごとに分け、1件当たり報酬で組み立て直すほうが確かです。知事登録業者の令和7年分の1件当たり報酬は次のとおりです。
| 業務の区分 | 1件当たり報酬 |
|---|---|
| 鑑定評価(価格評価) | 約36.0万円 |
| 賃料評価 | 約41.7万円 |
| 鑑定人等としての業務 | 約18.7万円 |
| 価格等調査 | 約13.5万円 |
| 隣接・周辺業務 | 約12.7万円 |
| 地価公示・地価調査 | 約7.1万円 |
| 固定資産税評価・相続税評価等 | 約4.9万円 |
(同 表1〜表10の件数・報酬額から当社算出)
想定されるケース:鑑定士1名の地方事務所
鑑定士1名の知事登録事務所で、年間の件数が次のとおりだったとします。
- 鑑定評価(価格評価)25件、価格等調査10件、賃料評価3件
- 地価公示・地価調査15件、固定資産税評価等10件
件数の合計は63件で、中央値46件と上位25%の境目71件の間に入ります。これを上の1件当たり報酬で売上に直すと、次のとおりです。
- 鑑定評価:25件×約36.0万円=約901万円
- 価格等調査:10件×約13.5万円=約135万円
- 賃料評価:3件×約41.7万円=約125万円
- 地価公示・地価調査:15件×約7.1万円=約106万円
- 固定資産税評価等:10件×約4.9万円=約49万円
合計は約1,315万円です。この事務所の決算書の売上が1,900万円なら、差の約585万円がどこから来ているかを説明できるようにしておく必要があります。隣接・周辺業務の受託、平均より大きい物件の評価、特定の依頼者からの高単価の継続案件などが考えられます。
差が隣接・周辺業務や複数の依頼者に分散した高単価案件で説明できれば、その事務所の強みとして示せます。一方、1社からの大型案件に依存しているなら、代表交代後に続くかどうかが価格交渉の焦点になります。逆に決算書の売上が組み立て直した額を大きく下回る場合は、価格等調査の比率が高い、再受託(他の鑑定業者からの下請け)が多いといった単価構造の問題を疑います。
売上の大きさは価格の出発点にすぎない
売上の位置が分かっても、それがそのまま譲渡価格になるわけではありません。鑑定会社の価格は、役員報酬などを正常化した実質的な営業利益に、代表交代後も利益が続く年数を掛けて考えるのが基本です。売上の構成を調べる意味は、その年数を決める「続く売上か、代表個人に付いた売上か」を見分けることにあります。価格の組み立て方は鑑定会社はいくらで売れるのかで解説しています。
買い手は公開データの何を見ているのか
公開の件数と決算書の整合
鑑定会社の譲受を検討する買い手は、売り手の決算書を受け取る前から、業者別の事業実績で件数の推移を確認できます。5年分が公表されているため、件数が増えているのか減っているのか、評価替えの年を除いても安定しているのかが分かります。
デューデリジェンス(買収前の詳細調査)では、公表されている件数と、決算書の売上・案件台帳が整合しているかを確かめます。件数に比べて売上が大きすぎる、あるいは小さすぎる場合は、上で見た単価構造の説明を求められます。事業実績の報告漏れや記載の誤りがあれば、登録の更新や行政の確認で問題になりうるため、売り手は直近5年分の報告の控えを準備しておくべきです。
ノンネームの段階で事務所が推定されるおそれ
業者別のデータが公開されているということは、ノンネームシート(社名を伏せた案件概要書)の書き方によっては事務所が推定されうるということです。「○○県、鑑定士1名、年間60件、公的評価中心」と書けば、公表データと照らして候補が数事務所に絞られる地域もあります。
断言します。鑑定会社のノンネームシートでは、件数・地域・依頼先を公表データと突き合わせても特定できない粒度に丸めることが欠かせません。都道府県ではなく地方ブロック、件数は幅で示す、依頼先は割合ではなく「行政・民間の双方」といった表現にとどめます。情報管理の進め方は売却を誰にも知られずに進められるかで解説しています。
まとめ
不動産鑑定業者の売上は、国土交通省の事業実績集計で確かめられますが、「知事登録業者の平均745万円」は地価公示や周辺業務を含まない数字で、それらを足すと1業者当たり約1,312万円になります。
要点を振り返ります。
- 事業実績は毎年報告され、国土交通省が全国集計と業者別の件数を5年分公表している
- 知事登録業者の売上は、表1の約745万円に地価公示・周辺業務・鑑定人等を加えると1業者約1,312万円、1人当たり約1,087万円
- 固定資産税評価替えの年は売上がほぼ倍になる。令和8年は令和9基準年度に向けた山の年にあたる
- 知事登録事務所の件数の中央値は46件、鑑定士1名の事務所が86.5%を占める
- 自社の位置は、件数を業務区分ごとに1件当たり報酬で組み立て直し、決算書との差を説明できるかで確かめる
- 業者別の件数は誰でも見られるため、ノンネームシートは公表データで特定されない粒度に丸める
売却を考え始めたオーナー鑑定士のあなたは、まず自社の事業実績報告の控えを5年分並べ、決算書の売上と突き合わせてみてください。鑑定会社の買収を検討している方は、候補の事務所の公表件数を見るとき、評価替えの年と依頼目的の構成を必ず分けて読んでください。当社は不動産鑑定士が直接、事業実績と決算書から売上の中身を読み解き、続く売上と代表個人に付いた売上の切り分けをお手伝いします。鑑定会社の売却・承継・買収をご検討の方は、秘密厳守の無料相談をご利用ください。無料相談はこちらからどうぞ。
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- #企業価値
鑑定業者の登録や専任の不動産鑑定士、公的評価の扱いまで含めた承継の全体像は鑑定会社のM&A・事業承継のページでまとめています。

執筆者
吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士
外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。
不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
鑑定会社の売却・買収・承継を、同業の鑑定士に相談する
相談無料・完全成功報酬・秘密厳守。会社名を伏せたままでも構いません。
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