地価公示の評価員枠に値段はつくのか?公的評価の実績が譲渡価格に反映されにくい理由と3つの例外
地価公示の評価員や固定資産税評価の受託実績は、鑑定会社の譲渡価格にどこまで反映されるのか。個人委嘱・年齢要件・新規委嘱約3%という公表データから値段がつきにくい理由を示し、年買法の数値例で織り込み方を比較、価格に効く3つの例外と売り手の準備を解説します。
「地価公示の評価員を20年続けてきた。固定資産税評価も毎年受けている。この実績は事務所の値段に上乗せされるはずだ」。売却をご検討中のオーナー鑑定士から、よく伺う言葉です。一方で買い手からは「地価公示の評価員は引き継ぎできないのだから、その売上は価値に入れられない」という声が返ってきます。
結論から申し上げます。地価公示の評価員枠そのものに値段はつきにくく、公的評価の実績は、あなたが期待するほど譲渡価格には反映されません。評価員は鑑定士個人への委嘱であり、会社を売っても評価員の立場は移らないからです。ただし「ゼロ」でもありません。誰が評価員なのか、買い手が応募できるのか、契約が法人に残るのかによって、価格に効く部分は確かに存在します。
公的評価が「そもそも引き継げるのか」は、地価公示・固定資産税評価・競売評価は引き継げるのか? で種類別に整理しました。本記事はその続編として、公的評価の実績を「いくらと見るか」に焦点を当てます。私たち鑑定士が、国の公表データと年買法の数値例を使って、期待値の置きどころを整理します。
地価公示の評価員枠に値段がつきにくい4つの理由
公的評価の実績が価格に反映されにくいのは、買い手が意地悪をしているからではありません。制度の仕組みそのものに理由があります。
理由1: 評価員は「会社」ではなく「鑑定士個人」への委嘱
地価公示の鑑定評価員は、国(土地鑑定委員会)が不動産鑑定士個人に委嘱するものです。株式譲渡で会社の株主が変わっても、事業譲渡で事業が移っても、評価員の地位は委嘱を受けた鑑定士本人から動きません。買い手が年買法(純資産に営業利益の1〜3年分を加えて価格の目安を出す方法)で見ているのは「代表交代後も続く利益」ですから、本人と一緒に離れていく売上は、年数を掛ける対象から外されやすくなります。
理由2: 年齢要件があり、売り手自身の継続にも期限がある
国土交通省「令和9年地価公示鑑定評価員の応募要領」では、価格判定の基準日(1月1日)時点で新規応募者は70歳未満、継続応募者は75歳未満という年齢要件が設けられています。売り手が70代前半であれば、並走期間(譲渡後に旧代表が一定期間残って引き継ぐ期間)を設けても、評価員を続けられる年数は数年に限られます。買い手から見れば「期限付きの売上」であり、長期の利益として評価しにくいのです。
理由3: 新規委嘱は全体の約3%。応募には直近3年の実績が要る
同じ応募要領の別紙「令和8年地価公示に係る評価員の申請者数及び委嘱者数」によると、委嘱者数は全国で2,221人、うち継続が2,155人、新規は66人です。新規委嘱は全体の約3%にとどまります。さらに新規応募には、直近3年間、各年3件以上の鑑定評価実績が求められます。
裏を返せば、新規応募者75人のうち66人が委嘱されており、要件を満たして応募すれば選任される余地は十分にあります。問題は「買い手側に、要件を満たし、その地域の分科会に応募できる鑑定士がいるか」です。いなければ、評価員枠は売り手の引退とともに地域の別の鑑定士へ移ります。
理由4: 報酬は発注者が決め、事務所の努力で伸ばせない
公的評価の報酬は、国・都道府県・市町村など発注者の基準で決まります。安定している反面、事務所の営業努力で単価を上げることはできず、繁忙期(地価公示なら1月1日の価格時点前後)に鑑定士の稼働を強く拘束します。買い手が「安定しているが利益率は民間案件ほど伸びない売上」と見るのは、合理的な判断です。
数字で見る:公的評価の実績は譲渡価格にいくら効くか
理屈だけでは期待値の調整はできません。想定されるケースで、公的評価の利益をどう扱うかによって価格がどう変わるかを試算します。
想定されるケースの前提
想定されるケース
地方都市の鑑定会社。鑑定士2名(代表72歳・勤務鑑定士45歳)、売上約4,000万円。うち公的評価(地価公示・地価調査・固定資産税評価)が約1,200万円で、評価員・受託の名義はすべて代表個人。役員報酬を正常化した後の営業利益は900万円で、うち公的評価に由来する利益を360万円と見積もります。時価純資産は1,000万円、年買法の年数は2年とします。
3つの織り込み方で比較する
| 織り込み方 | 計算 | 譲渡価格の目安 |
|---|---|---|
| A: 公的評価を全額評価 | 1,000万円+900万円×2年 | 2,800万円 |
| B: 公的評価の利益を除外 | 1,000万円+540万円×2年 | 2,080万円 |
| C: 除外+条件付き追加対価 | Bに加え、勤務鑑定士が評価員に委嘱されたら360万円を追加 | 2,080万〜2,440万円 |
AとBの差は720万円です。売り手がAを前提に「3,000万円近くで売れる」と考え、買い手がBを前提に「2,000万円強」と考えれば、交渉は最初から平行線になります。Cのように、承継が確認できた時点で追加対価を払うアーンアウト(一定の成果達成を条件に後払いする方式)を使えば、両者のリスクを分け合えます。なお、追加対価の税務上の扱いは税理士にご確認ください。
「ゼロ評価」も「全額評価」も誤りだと断言します
公的評価を全額評価するのは、個人委嘱という制度を無視しています。一方、ゼロ評価も行き過ぎです。地価公示の評価員を長く務めてきた事務所には、分科会での議論を通じた地域の価格水準への理解、標準地周辺の取引事例や資料の蓄積、行政や金融機関からの信頼があります。これらは評価員枠が移らなくても事務所に残り、民間案件の受注力として利益に現れます。私たち鑑定士は、公的評価の「枠」は割り引き、公的評価で培った「信用と資料」は民間案件の利益を通じて評価するという二段の見方を勧めます。年数の考え方そのものは 鑑定会社はいくらで売れるのか?年買法で読み解く売却相場 で詳しく解説しています。
それでも公的評価の実績が価格に効く3つの例外
次の条件が揃う場合、公的評価の売上は「承継確度が高い売上」として、年数を掛ける対象に戻せます。
例外1: 評価員が代表ではなく、譲渡後も残る勤務鑑定士
評価員が代表以外の勤務鑑定士であり、その鑑定士が譲渡後も在籍するなら、評価員の地位は会社に残る鑑定士とともに続きます。この場合、公的評価の売上は代表の引退と切り離して評価できます。価格に効かせるには、その鑑定士の雇用継続を条件に組み込み、離職リスクを下げる設計が欠かせません。
例外2: 買い手側の鑑定士が応募要件を満たし、同じ地域に応募できる
買い手に、直近3年の実績要件と年齢要件を満たし、同じ都道府県の分科会に応募できる鑑定士がいれば、翌年度以降の委嘱が現実的になります。基本合意の前に要件の充足を確認できていれば、表のCのように追加対価で評価する根拠になります。
例外3: 固定資産税評価が法人(業者)との契約で、契約が続く
固定資産税評価の鑑定評価は、自治体によって業者との契約、鑑定士個人との契約、地域の鑑定士協会を通じた発注など、形態が異なります。業者(法人)との契約で、株式譲渡により契約当事者が変わらないなら、契約が続く可能性があります。ただし契約更新の判断は自治体が行うため、契約書の確認と、必要に応じた発注者への事前相談が前提です。
固定資産税評価の受託実績は価値になるか
公的評価のなかでも、固定資産税評価の受託は売上規模が大きく、買い手が最も気にする項目です。
評価替えのサイクルが「売上の波」を作る
固定資産税の土地評価は3年に一度の評価替えがあり、標準宅地の鑑定評価はその基準年度に向けて集中します。評価替えの間の年は、地価変動に応じた時点修正の業務が中心になります。つまり固定資産税評価の売上は毎年一定ではなく、3年周期で波を打ちます。直近1年の決算だけで評価すると、評価替えの年なら過大に、中間年なら過小に見えてしまいます。固定資産税評価の売上は、少なくとも直近3年、できれば6年の平均で見るのが鑑定士としての見方です。
「7割評価」の運用が示す、公的評価の相互依存
固定資産税の宅地評価は、平成6年度の評価替え以降、地価公示価格等の7割程度を目途に評定する運用が続いています。地価公示と固定資産税評価は価格水準で結び付いており、地域の地価公示を担う鑑定士が固定資産税評価も担うケースが少なくありません。この相互依存があるため、地価公示の評価員が引退すると、同じ地域の固定資産税評価の受託にも影響が及びうる点を、買い手は織り込みます。
売り手が今からできる、期待値の調整と準備
公的評価の実績を少しでも価格に効かせるために、売却の数年前からできることがあります。
公的評価の売上と利益を区分して管理する
地価公示、地価調査、固定資産税評価、競売評価などの種類別に、売上・稼働時間・名義人を一覧にしておきます。買い手が知りたいのは「どの売上が、誰の名義で、いつまで続くか」です。この一覧があるだけで、表のBとCの間で交渉できる土台ができます。
勤務鑑定士を「次の評価員候補」に育てる
例外1に持ち込むための最も確実な方法は、勤務鑑定士が評価員として委嘱されることです。新規応募には直近3年、各年3件以上の鑑定評価実績が必要ですから、勤務鑑定士に署名する鑑定評価書を計画的に回し、実績要件を満たしてもらうことから始めます。代表への依存を下げる取り組みは、「代表がいないと回らない」は価格を何割下げるのか? も参考になります。
地域の信用を「民間案件」に変換しておく
評価員として築いた信用は、金融機関の担保評価、税理士からの相続案件、企業の資産評価などの民間案件に変換してこそ、会社の利益として残ります。業界全体では、令和5年時点で40〜60歳代の不動産鑑定士が74%を占め、30歳代以下はわずか7%です(国土交通省「業務領域の拡大等を通じた不動産鑑定士の担い手確保に向けて〜論点整理〜」令和7年3月)。担い手が減るなかで、地域の依頼を途切れさせない体制そのものが、買い手にとって価値になります。
まとめ
地価公示の評価員枠そのものに値段はつきにくく、公的評価の実績は、そのままでは譲渡価格に反映されにくいのが現実です。ただし、承継の条件を整えれば、価格に効く部分は確かに残ります。
要点を振り返ります。
- 地価公示の評価員は鑑定士個人への委嘱で、会社を売っても地位は移らない
- 年齢要件(新規70歳未満・継続75歳未満)と実績要件があり、新規委嘱は全体の約3%
- 公的評価の利益を全額評価するか除外するかで、想定ケースでは720万円の差が出る
- 評価員が残る勤務鑑定士である、買い手が応募要件を満たす、法人契約が続く、の3つが例外
- 固定資産税評価の売上は3年周期の波があるため、複数年の平均で見る
- 売り手は、公的評価の区分管理と、勤務鑑定士の評価員候補への育成から始める
公的評価を長く担ってきたオーナー鑑定士様、そして公的評価の担い手として地域に参入したい鑑定会社・勤務鑑定士様にとって、公的評価の扱いは価格交渉の最大の争点です。当社は不動産鑑定士が直接、公的評価の名義・契約・承継確度を整理し、売り手と買い手の双方が納得できる価格の組み立てをご一緒に考えます。鑑定会社の売却・承継・買収をご検討の方は、秘密厳守の無料相談をぜひ一度ご利用ください。無料相談はこちら。価格の目安は 企業価値・売却相場 でも確認できます。
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鑑定業者の登録や専任の不動産鑑定士、公的評価の扱いまで含めた承継の全体像は鑑定会社のM&A・事業承継のページでまとめています。

執筆者
吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士
外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。
不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
鑑定会社の売却・買収・承継を、同業の鑑定士に相談する
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