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買収の実務読了 約7

買収後100日で何をすべきか?鑑定会社のPMIで顧客・公的評価・職員・システムを失わないための実務

鑑定会社の買収は契約締結がゴールではありません。PMI(買収後の統合)で顧客への挨拶回りの順序、公的評価の年次スケジュール、評価書フォーマットとデータベースの統合、屋号の扱い、旧代表の役割の明文化まで、100日プランの形で不動産鑑定士が整理します。

「契約書に判を押して、株式の対価を払った。これで鑑定会社を手に入れた」。そう考えていると、半年後に顧客と職員が半分になっている、という事態が起こり得ます。

鑑定会社の価値は建物でも設備でもなく、顧客との関係・公的評価の受託・職員の知見・過去の評価データにあります。これらは契約書には載っておらず、買収後の統合、いわゆるPMI(Post Merger Integration=買収後に組織・業務・顧客を統合していく一連の作業)で丁寧に引き継いで初めて手元に残ります。不動産鑑定士として、鑑定会社のPMIで押さえるべき実務を100日プランの形に整理します。

鑑定会社のPMIが失敗する理由と100日プランの骨子

引き継ぐ対象は4つ、しかも全部が「人」に紐づく

鑑定会社で引き継ぐべきものは、顧客、公的評価、職員、システム(評価書フォーマットとデータベース)の4つです。厄介なのは、いずれも旧代表という「人」に紐づいていることです。顧客は旧代表を信頼して依頼し、公的評価は旧代表個人に委嘱され、職員は旧代表のやり方で評価書を作り、データベースは旧代表の頭の中の整理に従って並んでいます。

そのため、PMIの本質は「旧代表に紐づいたものを、新体制に付け替える作業」です。時間がかかるからこそ、最初の100日で何を優先するかを決めておく必要があります。

100日プランの例

期間顧客公的評価職員システム
〜30日主要顧客への挨拶回り(旧代表同席)受託状況と次回スケジュールの棚卸し個別面談・処遇の確認現状のフォーマット・DBの把握
31〜60日二次顧客への連絡、進行中案件の主担当の明確化自治体・裁判所への体制変更の連絡評価方針・レビュー体制の共有統合方針の決定(どちらに寄せるか)
61〜100日顧客ごとの引き継ぎ状況の確認次年度の評価作業の分担決定定着施策の実行段階的な移行開始

このプランは、買収の契約交渉と並行して作るのが理想です。当社ではM&Aの流れの中で、最終契約前にPMIの骨子を売り手・買い手で共有することをおすすめしています。

顧客への挨拶回りは「順序」で結果が変わる

金融機関→税理士→弁護士→自治体の順で回る

私たちが提案する順序は、金融機関、税理士、弁護士、自治体です。理由は「離脱の速さ」と「情報の伝わり方」にあります。

  1. 金融機関:担保評価は評価先リストで管理され、体制変更を知らないまま次の発注が来ると混乱します。また、支店から本部へ情報が上がるため、最初に正確な情報を伝えておく必要があります。旧代表と新代表がそろって訪問し、担当鑑定士が変わらないことを明確に伝えます
  2. 税理士:相続・事業承継案件の紹介元です。税理士は顧客に対して「信頼できる鑑定士」として紹介している以上、体制変更を後から知ると立場を失います。紹介の流れを止めないよう、早めに直接伝えます
  3. 弁護士:離婚・遺産分割・立退き等の案件は進行中のものが多く、担当鑑定士の継続が最優先です。進行中案件の一覧を作り、案件ごとに連絡します
  4. 自治体:固定資産税評価等の担当部署には、契約上の相手方の変更の有無を含めて正式に連絡します。年度の途中で体制が変わる場合は、担当者レベルで事前に相談しておくと手続がスムーズです

挨拶回りの3点セット

訪問時に伝えるのは「誰が代表になるか」「担当鑑定士は変わるか」「連絡先・請求先は変わるか」の3点です。この3点が明確なら、顧客の不安の大半は解消します。挨拶状は訪問後に送り、訪問前に文書だけが届く状態は避けてください。

屋号の扱い:当面は残すのが原則

「○○不動産鑑定事務所」という屋号は、地域での認知そのものです。買収後すぐに買い手の社名に変えると、顧客は「知らない会社になった」と受け取ります。私たちは、少なくとも1〜2年は旧屋号を残し、「○○不動産鑑定事務所(△△グループ)」のような併記で段階的に移行することをおすすめします。旧代表が並走する期間と屋号の移行時期を合わせるのが自然です。

公的評価は年次スケジュールに合わせて引き継ぐ

買収のタイミングを評価サイクルから逆算する

公的評価には年間の固定サイクルがあります。地価公示は1月1日時点の価格を評価し、評価作業は前年の秋から年明けにかけて集中します。都道府県地価調査は7月1日時点で、作業は春から夏です。固定資産税評価は3年ごとの評価替えに向けて標準宅地の鑑定評価が行われます。

このサイクルの真っ最中に代表や担当鑑定士が変わると、作業の遅れや品質の低下につながります。買収の実行日(クロージング)は、可能であれば繁忙期を避け、次のサイクルが始まる前に新体制を固められる時期に設定してください。

承継可否は種類ごとに違う

引き継ぎで最も誤解が多いのがここです。地価公示の鑑定評価員は個人として委嘱され、会社には紐づきません。固定資産税評価は自治体との契約、競売評価人は裁判所の選任です。いずれも「買収したから自動的に引き継げる」ものではなく、種類ごとに承継可否を確認する必要があります。旧代表が評価員であれば、旧代表が並走する間に在籍鑑定士が評価員に選任されるよう、旧代表から鑑定士協会の支部等への働きかけを依頼するのが実務的です。詳しくは公的評価は引き継げるかをご覧ください。

職員・システム・旧代表の役割を固める

職員:最初の30日で個別面談を終える

職員は「買収された」というニュースを、代表の説明より先に噂で知ることがあります。クロージング当日か翌日に全員に説明し、30日以内に個別面談で処遇と役割を確認してください。想定されるケースとして、都内・鑑定士3名の法人が中堅鑑定会社に株式譲渡され、職員全員の雇用維持が条件となった場合、雇用維持は契約に書けても、職員の納得は面談でしか得られません。雇用条件の維持については職員の雇用を守るで詳しく整理しています。

評価書フォーマットとデータベースの統合は「急がない」

鑑定会社を2社統合すると、評価書の様式、事例カードの整理方法、案件管理台帳がそれぞれ違います。買い手側の様式に即日統一しようとすると、旧事務所の職員の生産性が落ち、評価書の品質にも影響します。私たちがおすすめするのは、100日以内に「どちらに寄せるか」だけを決め、実際の移行は次の公的評価サイクルが終わってから段階的に行う方法です。過去の評価書とデータベースは、旧事務所の分類のまま検索できる状態を維持したうえで、新規案件から新様式に移行します。

旧代表の役割は書面で決める

旧代表の並走期間中、最も揉めるのが「誰が最終判断をするか」です。顧客対応・評価の最終レビュー・職員の指揮・新規受任の判断について、旧代表と新代表のどちらが決めるのかを、並走開始前に書面にしてください。期間、報酬、並走終了後の競業避止についても同様です。並走期間の設計は引き継ぎ・並走期間の考え方で解説しています。契約条項の具体的な内容は弁護士に、旧代表への報酬の税務上の取扱いは税理士にご確認ください。

よくある失敗

旧代表が「口出ししない」と言いながら顧客対応を続け、職員も旧代表に相談し続ける状態です。新代表は形だけになり、並走終了と同時に顧客が離れます。役割を書面化し、主担当の交代時期を決めることが唯一の予防策です。

まとめ

鑑定会社のPMIは、旧代表に紐づいた顧客・公的評価・職員・システムを新体制に付け替える作業です。最初の100日で、顧客には金融機関・税理士・弁護士・自治体の順に旧代表同席で挨拶回りを行い、公的評価は種類ごとに承継可否を確認して年次サイクルに合わせ、職員とは個別面談を終え、システムの統合方針を決める。屋号は当面残し、旧代表の役割は書面で決める。これらを契約交渉と並行して準備できるかどうかで、買収の成否が分かれます。

鑑定会社の買収を検討しているあなたへ。当社は鑑定会社・鑑定事務所専門のM&A仲介として、買収ニーズの登録から契約後の統合準備まで伴走します。想定されるケースもご参照ください。ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。無料相談はこちらからどうぞ。

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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の案件に対する助言ではありません。記載の価格・相場は目安であり、実際の譲渡価額は個別の交渉により決まります。税務・法務の具体的な判断は、税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
吉田 健人

執筆者

吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士

外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。

不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士

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