鑑定業者の専任要件を買収後も満たすには?「常勤・専ら」の意味と譲受直後の人員配置3パターン
鑑定業者の専任要件は、事務所ごとに常勤で専らその事務所の業務に従事する鑑定士を置くこと。鑑定会社を買収した後、誰が専任になるのかを、前代表の並走・社内派遣・外部採用の3パターンで費用・期間・リスクから比較し、代表者変更との違いや契約での手当てを不動産鑑定士が整理します。
鑑定会社の買収を検討するとき、価格より先に決めておくべき問いがあります。「譲り受けた翌日から、この事務所の専任の不動産鑑定士は誰なのか」。鑑定業者の専任要件は、事務所ごとに専任の鑑定士を置くことであり、クロージング(譲渡の実行日)の当日から満たしていなければなりません。
結論から言えば、譲受直後の体制は「前代表の並走」「買い手社内からの派遣」「外部採用」の3パターンのどれか、またはその組み合わせで作ります。そして、どのパターンでも「常勤」「専ら」という専任の中身を満たせるかを先に確認しないと、登録上は名前を書けても実態が伴わない体制になります。会社の代表者を誰にするかと、専任の鑑定士を誰にするかは、別々に決めてよい問いです。
ここでは、専任要件の正確な意味を国土交通省の公表資料で確認したうえで、3つのパターンを費用・期間・リスクで比較し、私たち鑑定士が考える現実的な組み合わせ方を整理します。
鑑定業者の専任要件とは何か。「常勤・専ら」の中身を確認する
第35条が求めるのは「事務所ごとに専任の鑑定士」
要件は「法人に1人」ではなく「事務所ごと」です。本店と支店がある会社を譲り受けるなら、支店にも専任者が要ります。
国土交通省の解釈:常に在籍・常勤し、専らその事務所で自ら実地に従事する
国土交通省の「不動産鑑定業者(国土交通大臣登録)の登録等手続Q&A」(令和3年11月1日)は、専任の不動産鑑定士を、その事務所に常に在籍・常勤して、専らその事務所の鑑定評価業務に自ら実地に従事する者と説明しています。専任であることは、雇用契約書や辞令・異動通知の写しで示し、遠隔地に住んでいる場合は通勤の事実を示す書面も求められます。
同じQ&Aは、他の法人の代表取締役や常勤役員としての業務に専ら従事している状態の人は、専任として認められないとしています。一方、専任ではない鑑定士は、複数の事務所で業務に従事することが可能とされています。
「代表者」と「専任の鑑定士」は別の役割
鑑定会社の代表取締役が鑑定士である必要はありません。株式譲渡(株式を買い取り、法人格をそのまま引き継ぐ方法)で取得すれば、買い手企業の役員が代表者に就き、専任の鑑定士は別の人が務める、という形が可能です。役員や専任の鑑定士が変わったときは、遅滞なく変更の登録を申請し、新役員については略歴書や、登録の拒否要件に該当しないことの誓約書を出します(同Q&A)。
つまり「誰が代表になるか」は会社の統治の問題、「誰が専任になるか」は登録要件の問題です。前者は買い手の都合で決めてよく、後者は常勤・専らの実態から逆算して決めます。
譲受直後に鑑定業者の専任要件を満たす人員配置は3パターン
パターンA:前代表が専任のまま並走する
もっとも手堅いのは、売り手の前代表が譲渡後も一定期間、常勤の役員または従業員として残り、専任の鑑定士を続ける形です。顧客・公的評価の担当・職員との関係がそのまま続くため、クロージング直後の混乱が最小になります。
注意点は2つあります。1つは「常勤」であることです。顧問や週2日の非常勤では専任の要件を満たせません。もう1つは、前代表が退任する日に、要件を欠くリスクが先送りされているだけだという点です。並走期間の設計は鑑定事務所の並走期間で詳しく扱っています。
パターンB:買い手社内の鑑定士を派遣する
買い手がすでに鑑定業者であれば、自社の鑑定士を異動(または出向)させて対象事務所の専任に据えられます。評価方針や品質管理を買い手の基準にそろえやすく、統合を早く進められる形です。
ただし、専任は「専らその事務所」が条件です。派遣した鑑定士が、元の事務所の専任を兼ねることはできません。元の事務所に専任が1人しかいなければ、そちらが要件を欠きます。遠隔地から通う場合は通勤の実態も問われます。出向の形をとるなら、辞令等で常勤の実態を示せるかを、事前に登録行政庁へ確認してください。
パターンC:外部から鑑定士を採用する
買い手が鑑定士を持たない不動産会社や士業法人であれば、外部採用が選択肢になります。問題は採用市場の薄さです。国土交通省の「論点整理」(令和7年3月)によれば、鑑定業者に所属する鑑定士等は平成23年の5,057名から令和6年の4,496名へ11%減り、年齢構成でも30歳代以下は全体の7%(令和5年)にとどまります。クロージング日から逆算して採用を間に合わせるのは難しく、Aとの併用が前提になります。
3パターンを費用・期間・リスクで比較する
比較表
| 観点 | A 前代表の並走 | B 社内派遣 | C 外部採用 |
|---|---|---|---|
| クロージング日に間に合うか | 間に合う | 異動の調整次第 | 間に合わないことが多い |
| 顧客・公的評価の継続 | 最も安定 | 引継ぎが必要 | 引継ぎが必要 |
| 主なリスク | 退任時に要件を欠く | 元の事務所が手薄になる | 採用難・早期離職 |
想定されるケース:3年間の人件費で比べる
鑑定士2名(前代表と勤務鑑定士)、売上4,000万円の法人を株式譲渡で譲り受ける場面を想定します。勤務鑑定士は残留の意向があるものの、専任を引き受けるかは未定です。数値は比較のための仮の設定で、実際の報酬水準は地域や経験で大きく変わります。
| 項目 | A 並走2年→勤務鑑定士へ | B 社内派遣 | C 外部採用+A半年 |
|---|---|---|---|
| 前代表の報酬 | 年900万円×2年=1,800万円 | 0円 | 年900万円×0.5年=450万円 |
| 専任者の追加人件費 | 0円(既存職員) | 年1,000万円×3年=3,000万円 | 年900万円×3年=2,700万円 |
| その他 | 勤務鑑定士の処遇改善 年100万円×3年=300万円 | 派遣元の売上減(別途) | 紹介手数料 約300万円 |
| 3年合計 | 約2,100万円 | 約3,000万円+機会損失 | 約3,450万円 |
Aは費用が最も小さく見えますが、2年後に勤務鑑定士が専任を引き受けてくれることが前提です。その前提が崩れれば、3年目からCの費用が上乗せされます。Bは現金の支出が少なく見えても、派遣した鑑定士が元の事務所で上げていた売上が減ります。数字の大小だけでなく、「前提が崩れたときに何が起きるか」で比べてください。
2週間の猶予は「計画」に使わない
第35条の2週間は、急な退職や死亡で要件を欠いたときの是正期間です。クロージングの時点で専任が決まっていない状態を、この猶予で埋める前提の計画は立てるべきではありません。断言します。専任の鑑定士が決まるまで、クロージング日を決めてはいけません。登録の段取り全体は鑑定業者登録の承継で整理しています。
現実的な組み合わせ方と契約での手当て
基本形は「A+育成」、買い手が鑑定業者なら「B+前代表の非常勤支援」
買い手が鑑定士を持たない場合、Aで時間を稼ぎながら、在籍の勤務鑑定士を次の専任として育てるか、Cの採用を並行して進めます。買い手が鑑定業者であれば、Bで最初から自社の鑑定士を専任に据え、前代表は非常勤で顧客と公的評価の引継ぎを支える形が、後の揺れが少なく済みます。前代表は専任でない限り、非常勤でも鑑定評価に関与できます。
契約に入れておきたい3つの手当て
- 専任者の確定をクロージング条件にする:専任となる鑑定士の雇用契約(または辞令)の締結を、譲渡実行の前提条件にします
- 前代表の在籍期間と退任予告:Aを使う場合、常勤で残る期間と、退任する場合の予告期間(たとえば6か月前)を定めます
- 要件を欠いた場合の対応:後任が見つからない場合の協力義務や、譲渡対価の一部を後払いにする仕組みを検討します
契約条項の具体的な書き方は弁護士に、前代表への報酬や退職金の税務上の取扱いは税理士にご確認ください。買い手が鑑定士でない場合の独立性の論点は鑑定士でなくても鑑定会社は買えるのかをご覧ください。
登録手続の確認先
まとめ
鑑定業者の専任要件は、事務所ごとに、常勤で専らその事務所の業務に従事する鑑定士を置くことです。買収では、代表者の人選とは切り離して、クロージング当日の専任者を先に決めます。
要点を振り返ります。
- 専任は「常に在籍・常勤し、専らその事務所で自ら実地に従事する」鑑定士。顧問や週数日の非常勤では満たせない
- 代表者が鑑定士である必要はなく、代表者の変更と専任の変更は別の論点として設計できる
- 譲受直後の体制は、A前代表の並走、B社内派遣、C外部採用の3パターン。Cは単独では間に合わないことが多い
- 費用の大小だけでなく、前代表の退任や採用難で前提が崩れたときの対応まで比べる
- 第35条の2週間の猶予を計画に組み込まず、専任者の確定をクロージング条件にする
鑑定会社の買収を検討している不動産会社・士業法人・鑑定業者のあなたへ。専任の鑑定士を誰にするかは、価格交渉より先に決めるべき条件です。当社は不動産鑑定士が直接、譲受後の人員配置から買収ニーズの登録、M&Aの流れに沿った条件整理までご一緒に設計します。鑑定会社の売却・承継・買収をご検討の方は、秘密厳守の無料相談をご利用ください。無料相談はこちらからどうぞ。
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鑑定業者の登録や専任の不動産鑑定士、公的評価の扱いまで含めた承継の全体像は鑑定会社のM&A・事業承継のページでまとめています。

執筆者
吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士
外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。
不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
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