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企業価値・相場読了 約9分

のれんの評価はどう決まるのか?鑑定会社の営業権を4つの資産に分解して測る方法

鑑定会社ののれん(営業権)の評価は、依頼者基盤・有資格者・入札等の実績要件・蓄積データという4つの無形資産の持続性で決まります。会計・税務上の扱い、年買法の年数への翻訳、営業利益800万円の数値例、相続税評価の営業権との違いを不動産鑑定士が解説します。

鑑定会社の売却で、のれんの評価ほど売り手と買い手の見方が食い違う項目はありません。「長年地域で信頼されてきたのだから、のれんは大きいはずだ」と考えるオーナー鑑定士のあなたと、「代表が抜けたら何が残るのか」を見ている買い手とでは、同じ会社を見ていても数字が大きく違ってきます。

結論から申し上げます。鑑定会社ののれん(営業権)は「なんとなくの信用」ではなく、①依頼者基盤、②有資格者、③入札・受注の実績要件、④蓄積された業務データという4つの無形資産の合計です。そして、のれんの大きさを決めるのは各資産の「量」よりも、代表が交代した後もそれが続くかという「持続性」です。年買法で営業利益に掛ける年数(1〜3年)は、この4つの持続性を足し合わせたものと考えると、根拠を持って説明できるようになります。

私たち鑑定士は、収益還元法で「その収益がどれだけ続くか」を日常的に判断しています。ここでは同じ発想で、鑑定会社ののれんの中身を分解し、それぞれを測る物差しと数値例を整理します。

のれんとは何か:M&Aで支払う「純資産を超える部分」

会計上の定義:対価と時価純資産の差額

のれんとは、M&Aで支払う対価のうち、受け入れる資産・負債の時価の純額(時価純資産)を上回る部分をいいます。企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準委員会)第31項は、取得原価が受け入れた資産・引き受けた負債に配分された純額を上回る場合、その超過額をのれんとして会計処理すると定めています。

たとえば時価純資産500万円の鑑定会社を1,900万円で買えば、差額の1,400万円がのれんです。買い手は「帳簿に載っていない何か」に1,400万円を払っていることになります。その「何か」を言葉と数字で説明できるかどうかが、交渉の説得力を左右します。

「営業権」と「のれん」は同じものか

営業権とは何か、M&Aの文脈では、のれんとほぼ同じ意味で使われます。法人税法では「営業権」、会計では「のれん」という呼び方が中心で、いずれも「その事業が同業他社より多くの利益を上げる力(超過収益力)」を表します。

鑑定会社のように設備をほとんど持たない業態では、譲渡価格の大部分がのれんになります。売上6,000万円でも純資産は数百万円という会社が珍しくない以上、鑑定会社の価値の議論は、ほぼのれんの議論だと言ってよいでしょう。純資産が小さくなる理由は年買法で読み解く売却相場で解説しています。

会計・税務上の扱いの違い

のれんは、会計と税務で扱いが異なります。

区分株式譲渡事業譲渡
買い手の会計個別決算では子会社株式として計上。のれんは連結決算で認識のれんとして資産計上し、20年以内で規則的に償却(企業結合に関する会計基準第32項)
買い手の税務のれんの償却はできない資産調整勘定として60か月で均等に損金算入(法人税法第62条の8)
売り手の課税株主個人の譲渡所得法人の譲渡益

どちらのスキームが有利かは、売り手・買い手双方の税負担で逆転することがあります。具体的な税額の比較は、必ず税理士にご確認ください。スキームの選び方は株式譲渡と事業譲渡の比較にまとめています。

鑑定会社の営業権を構成する4つの資産

ここからが本題です。鑑定会社ののれんを、私たちは次の4つに分解して考えます。

①依頼者基盤:継続して発注してくれる先

金融機関の担保評価、税理士からの相続案件、自治体の固定資産税評価、弁護士からの訴訟案件など、繰り返し発注してくれる依頼者の集まりです。のれんの中で最も大きく、同時に最も失われやすい資産です。依頼者が「会社」に発注しているのか「代表個人」に発注しているのかで、代表交代後の残り方がまったく違うためです。

②有資格者:鑑定評価書に署名できる人材

鑑定業者は、事務所ごとに専任の不動産鑑定士を置く必要があります(不動産の鑑定評価に関する法律第35条)。鑑定士の数と年齢構成、そして譲渡後も残るかどうかは、受注能力そのものです。国土交通省の論点整理(令和7年3月)によれば、鑑定業者に所属する鑑定士等は平成23年の5,057名から令和6年には4,496名へ11%減少しています。採用が難しいからこそ、在籍する有資格者は買い手にとって大きな価値になります。

③入札・受注の実績要件:法人に積み上がる「資格」

自治体や公的機関の鑑定業務では、入札参加資格の登録や「過去の同種業務の実績」が参加条件になることがあります。こうした資格や実績は法人に積み上がるため、株式譲渡で法人格を維持すれば引き継がれやすく、事業譲渡では買い手側で改めて登録が必要になるのが一般的です。発注機関ごとに要件が異なるため、個別の確認が欠かせません。

なお、地価公示の評価員など個人に委嘱される公的評価は、この資産には含めにくい点に注意が必要です。この点は公的評価の実績と譲渡価格で詳しく整理しています。

④蓄積データ:評価の生産性を支えるノウハウ

過去の鑑定評価書や調査記録、地域ごとの賃料・利回りの整理、評価書のひな型やチェックリストなど、業務の生産性を支える蓄積です。守秘義務の範囲内で社内に残る知見であり、新規参入者が同じ品質で評価書を仕上げるまでの時間を短縮します。単独では価格を大きく押し上げにくいものの、①〜③の持続性を下支えする資産です。

4つの資産はどう測るのか:持続性の物差し

測る物差しを数値にする

「依頼者基盤が強い」と言うだけでは、買い手は納得しません。次のように、確認できる数字に置き換えます。

資産測る物差し(例)持続性が高い状態持続性が低い状態
①依頼者基盤上位5社の売上比率・取引年数・代表経由の受注比率5社以上に分散し、担当者が複数1〜2社に集中し、窓口は代表のみ
②有資格者在籍鑑定士の人数・年齢・残留の意思代表以外に署名できる鑑定士が在籍鑑定士は代表1名のみ
③実績要件入札参加資格の登録先・過去3年の受注件数法人名義で複数機関に登録・受注個人委嘱の業務が中心
④蓄積データ評価書の電子化・ひな型・検索性誰でも過去案件を参照できる代表の記憶と紙の書類のみ

このうち①と②は、代表への依存度とほぼ同じことを測っています。代表依存の測り方と減らし方は鑑定会社の属人性を測り、減らす方法が参考になります。

年買法の「年数」に翻訳する

年買法(時価純資産に正常化した営業利益の1〜3年分を加えて価格の目安を出す方法)の年数は、4つの資産の持続性を足し合わせたものと考えると整理しやすくなります。当事務所では、目安として各資産に0〜0.75年の幅を持たせ、合計で0〜3年の範囲に収める考え方をとっています。

  • ①依頼者基盤:0〜0.75年
  • ②有資格者:0〜0.75年
  • ③実績要件:0〜0.75年
  • ④蓄積データ:0〜0.75年

これは公的な基準ではなく、交渉の論点を整理するための当事務所の物差しです。実際の年数は買い手の事業計画や市場環境で上下します。

数値例で見るのれんの評価

想定されるケース:同じ利益で、のれんが2倍違う

想定されるケースとして、正常化後の営業利益800万円、時価純資産500万円の鑑定会社を2社比べます。

  • A社:金融機関・税理士・自治体に依頼者が分散し、代表以外に鑑定士2名が在籍。法人名義で自治体の入札参加資格を持ち、評価書は電子化済み
  • B社:売上の6割が代表の人脈による受注。鑑定士は代表1名。入札実績はなく、過去の資料は紙のみ
資産A社の年数B社の年数
①依頼者基盤0.75年0.25年
②有資格者0.5年0.25年
③実績要件0.25年0年
④蓄積データ0.25年0.25年
合計1.75年0.75年

A社ののれんは800万円×1.75年=1,400万円で、譲渡価格の目安は純資産500万円を加えて1,900万円です。B社ののれんは800万円×0.75年=600万円で、目安は1,100万円になります。同じ利益でも、4つの資産の持続性次第でのれんは2倍以上違うことが分かります。あくまで例示であり、実際の価格は買い手の評価と交渉で決まります。

B社の場合も、旧代表が並走期間(譲渡後も一定期間、旧代表が業務に関わる期間)を設けて依頼者を引き継ぐ条件にすれば、①の年数を引き上げる交渉が可能です。並走期間の設計は鑑定事務所の並走期間の設計で解説しています。

相続税評価の営業権とは別物

鑑定士のあなたが混同しやすいのが、相続税の財産評価における営業権です。財産評価基本通達165は、営業権を「平均利益金額×0.5−標準企業者報酬額−総資産価額×0.05」で求めた超過利益金額に、持続年数(原則10年)に応じた複利年金現価率を掛けて評価すると定めています。

この算式では、平均利益金額が5,000万円以下だと標準企業者報酬額が利益の2分の1以上になるため、営業権の価額は算出されません。つまり、多くの小規模な鑑定会社は、相続税評価上は営業権ゼロです。また同通達は、医師・弁護士のようにその者の技術や才能を主とする事業で、事業者の死亡とともに消滅する営業権は評価しないとしています。

一方、M&Aの譲渡価格では、上の数値例のとおり、のれんに1,000万円単位の値段がつくことがあります。税務上の評価はあくまで課税のための画一的なルールであり、当事者間の取引価格とは目的も前提も異なります。これは、固定資産税評価額と市場価格が一致しないのと同じ構造です。株式の相続税評価や贈与への影響は、税理士にご確認ください。

のれんを大きくする売り手の準備

4つの資産を「会社のもの」に移す

のれんを大きくする要は、4つの資産を代表個人から会社へ移すことです。

  1. 依頼者基盤:主要な依頼者に、代表以外の担当者を同行させて窓口を複線化する
  2. 有資格者:代表以外に署名できる鑑定士を育て、譲渡後の処遇を早めに話し合う
  3. 実績要件:入札参加資格や業務実績を法人名義で積み上げ、登録先を一覧にしておく
  4. 蓄積データ:評価書と調査記録を電子化し、ひな型と品質チェックの手順を文書にする

いずれも1年以上かかる取り組みです。売却の数年前から着手する段取りは引退3年前からの準備リストを参考にしてください。

資料で説明できる形にしておく

どれほど強い依頼者基盤でも、買い手が確認できなければ価格には反映されません。依頼者別・依頼目的別の売上推移(過去3〜5期)、鑑定士ごとの署名件数、入札参加資格の登録先一覧、評価書の管理方法などを、資料として示せるように準備しておくことをおすすめします。私たち鑑定士が評価の根拠を資料で示すのと同じく、のれんも根拠を示せてはじめて価格になります。

まとめ

鑑定会社ののれんは、依頼者基盤・有資格者・入札や受注の実績要件・蓄積データという4つの無形資産の合計であり、その大きさは代表交代後の持続性で決まります。

要点を振り返ります。

  • のれんは、M&Aの対価のうち時価純資産を上回る部分で、鑑定会社の価値の大部分を占める
  • 営業権(のれん)は4つの資産に分解し、それぞれを数字で測ると根拠を持って説明できる
  • 年買法の年数(1〜3年)は、4つの資産の持続性を足し合わせたものと考えると整理しやすい
  • 同じ営業利益でも、持続性次第でのれんは2倍以上違うことがある
  • 相続税評価の営業権(財産評価基本通達165)と、M&Aの取引価格は目的も前提も異なる
  • 会計・税務の扱いはスキームで変わるため、税額の比較は税理士にご確認ください

自社ののれんがどのくらいに見えるのかを知りたいオーナー鑑定士の方、買収先ののれんの妥当性を確かめたい鑑定会社・異業種の方は、まず4つの資産を棚卸しするところから始めてみてください。当社の企業価値・売却相場ページでは、年買法の目安を確認できる簡易シミュレーターもご用意しています。

鑑定会社の売却・承継・買収をご検討の方は、秘密厳守の無料相談をご利用ください。のれんの中身を一緒に分解し、交渉で説明できる形に整理いたします。ぜひ一度ご相談ください。初回の無料相談も承っております。無料相談はこちらからどうぞ。

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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の案件に対する助言ではありません。記載の価格・相場は目安であり、実際の譲渡価額は個別の交渉により決まります。税務・法務の具体的な判断は、税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

鑑定業者の登録や専任の不動産鑑定士、公的評価の扱いまで含めた承継の全体像は鑑定会社のM&A・事業承継のページでまとめています。

吉田 健人

執筆者

吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士

外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。

不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士

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