鑑定会社の売却は誰に相談すべきか?仲介・マッチングサイト・紹介の3窓口を守秘・スピード・費用で比較する
鑑定会社の売却を相談できる窓口は、M&A仲介会社・FA、マッチングサイト、士業や同業からの紹介と公的窓口の3経路です。狭い鑑定業界で守秘をどう守るか、スピードと費用のどちらを優先するかを軸に比較し、「完全成功報酬」の中身と手数料の試算を鑑定士が整理します。
「そろそろ事務所をどうするか決めなければならない。ただ、誰に相談していいのか分からない」。鑑定事務所のオーナーから、私たちが最も多く伺うのはこの一言です。売却や承継を考え始めても、最初の一歩が踏み出せない。理由は単純で、相談すること自体にリスクがあるからです。
不動産鑑定業界は狭い世界です。全国の不動産鑑定業者は3,398業者(令和7年1月1日現在、大臣登録・知事登録の計。出典: 国土交通省「不動産の鑑定評価に係る登録状況」)にすぎず、同一県内で顔と名前が一致する関係が普通にあります。「あの事務所が売りに出ているらしい」という話が一度流れれば、確実に耳に入ります。相談先の選び方を誤ると、売却が成立する前に信用が傷つきます。
ここでは、鑑定会社の売却・承継を相談できる窓口を3つの経路に整理し、守秘・スピード・費用という3つの軸で比較します。あわせて、費用の不安の中心にある「完全成功報酬」という言葉が実際には何を指すのか、その中身を私たち鑑定士の視点で分解します。
相談先を決める前に押さえる3つの判断軸
窓口の優劣は、事務所の状況によって変わります。まず、自分がどの軸を重く見るのかを決めてください。
軸1: 守秘 ― 「検討中」が漏れた時点で失うもの
守秘が最優先になるのは、職員を抱えている事務所、公的評価の委員を務めている事務所、地元の金融機関や自治体との継続取引がある事務所です。売却の検討が外部に漏れると、職員の離職や継続案件の見送りという形で、売却前に事務所の価値そのものが削られます。「来年には別の会社になるかもしれない」という情報は、それだけで発注をためらわせる材料になります。ノンネームシート(社名を伏せ、地域・規模・業績の概要のみを記載した匿名の案内資料)とNDA(秘密保持契約)の実務は、売却を誰にも知られずに進められるか で整理しています。
軸2: スピード ― 逆算すべき期限がある
鑑定会社のM&Aには業界固有の時間的制約があります。不動産鑑定業者の登録は5年ごとの更新であり(不動産の鑑定評価に関する法律第22条)、更新直前に株主や代表が変わる段取りを組むと手続が重なります。地価公示・地価調査・固定資産税評価などの公的評価も年度単位の任期で動くため、期中の交代は現実的ではありません。
さらに切実なのは体調です。代表が倒れてから動き始めると選択肢は一気に狭まります。廃業届は廃業等の日から30日以内に提出する必要があり(同法第29条)、時間切れで廃業を選ばざるを得ない事務所は珍しくありません。全体の所要期間は 鑑定会社のM&Aは何か月かかるのか を参照してください。
軸3: 費用 ― 手数料が譲渡価額を上回る構造
小規模な鑑定事務所の売却では、手数料が譲渡価額を上回る事態が実際に起こります。士業事務所のM&Aでは年買法(純資産に営業利益の1〜3年分を加えて価格の目安とする考え方)が実務上よく用いられ、純資産の小さい事務所では譲渡価額が数百万円から2,000万円程度のレンジに収まることが多いというのが一般論です。一方、M&A仲介の最低報酬は500万〜2,500万円程度とされます。譲渡価額1,000万円の事務所に最低報酬1,000万円を当てはめれば、手取りはゼロです。費用の構造を確認しないまま契約を結ぶことが、鑑定事務所の売却で最も避けたい失敗だと断言します。
窓口1: M&A仲介会社・FA
最も一般的な窓口です。案件化から相手探し、条件交渉、契約締結までを一貫して支援します。
仲介とFAは立場が違う
仲介は売り手と買い手の間に立ち、双方から手数料を受け取る形態です。FA(フィナンシャル・アドバイザー=売り手または買い手の一方のみに助言する立場)は片方だけの利益のために動きます。仲介は成約までのスピードが出やすく小規模案件では現実的な選択肢ですが、双方から報酬を受け取る構造上、利益相反の可能性が常にあります。私たち鑑定士は、依頼者との利害関係が独立性を損なう構造に日常的に向き合う職業です。その目で見れば、両手仲介そのものが問題なのではなく、両手であることを開示しないことが問題です。
鑑定会社にとっての強みと弱み
強みは、相手探しから条件交渉までを任せられること、守秘の管理が業務の前提として組み込まれていることです。弱みは費用と、業界理解のばらつきです。
鑑定会社のM&Aでは、専任の不動産鑑定士を置く要件、鑑定業者登録の承継可否、公的評価の引継ぎといった業界固有の論点が価格と成否を左右します。鑑定業界を知らない担当者に当たると、「専任鑑定士が退職したら登録はどうなるのか」という基本的な論点が、デューデリジェンスの段階まで放置されることがあります。
登録M&A支援機関かどうかを確認する
中小企業庁のM&A支援機関登録制度は令和3年8月に創設された制度で、登録された仲介者・FAの名称と手数料体系が公表されています。事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)の補助対象となるのは、原則としてこの登録を受けた支援機関に支払う費用です。補助率や上限額は公募回ごとに見直されるため、最新の公募要領をご確認ください。
登録の有無と手数料体系は M&A支援機関登録制度のデータベース で検索できます。あわせて、中小M&Aガイドラインの遵守宣言を自社サイトに掲載しているかどうかも確認してください。当社の宣言は 中小M&Aガイドライン遵守宣言 に全文を掲載しています。
契約前の説明は「求めてよい」もの
中小企業庁の中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)は、仲介者・FAに対し、契約前に手数料の算定基準・料率表・最低手数料・相手方からの手数料受領の有無などを書面で説明することを求めています。説明を求めるのはあなたの正当な権利です。確認すべき項目は 仲介契約前に確認すべき8項目 に整理しました。
窓口2: M&Aマッチングサイト
売り手が匿名で案件を掲載し、買い手候補が直接アプローチするオンラインのプラットフォームです。近年、小規模案件の受け皿として利用が広がっています。
費用は抑えられる
多くのサイトは売り手側の利用料を無料または低額に設定し、買い手側から手数料を得る設計になっています。譲渡価額が小さい事務所にとって参入障壁が低いことは明確な利点です。仲介の最低報酬が払えないという理由だけで廃業を選ぶくらいなら、まず反応を見るという判断には合理性があります。
守秘とスクリーニングは自己責任になる
一方で、相手の選別と情報管理は原則として売り手自身の責任です。ここが鑑定会社にとって最大の難所になります。
匿名で掲載していても、「地方都市・鑑定士2名・公示の委員あり・売上3,000万円台」といった情報を並べれば、業界内では事務所が特定され得ます。鑑定業者が3,398業者しかない以上、県名と規模を書いた時点で候補はごく少数に絞られます。情報を削れば買い手候補の関心は集まらず、情報を出せば特定される。このジレンマを一人で管理しなければなりません。
鑑定業特有の要件が伝わらない
もう一つの弱点は買い手候補の質です。マッチングサイトには鑑定業界の外にいる買い手も多数参加しています。異業種の買い手が悪いわけではなく、不動産会社や士業法人による買収は現実的な選択肢です。ただし、鑑定業者登録には事務所ごとに専任の不動産鑑定士を置く必要があるという前提(同法第35条)を理解していない買い手と交渉を進めると、基本合意の後で「登録が維持できない」という根本的な問題が判明し、そこまでの数か月が無駄になります。鑑定士以外による買収の要件は 鑑定士でなくても鑑定会社は買えるのか で整理しています。
窓口3: 士業・同業からの紹介と公的窓口
3つ目は、既存の人的ネットワークと公的機関を使う経路です。費用が最も抑えられる一方、進行は自力に近くなります。
顧問税理士・弁護士からの紹介
顧問税理士は事務所の財務内容を把握しており、信頼関係もあります。相手候補を紹介してもらえれば守秘の面でも安心感があります。
ただし、税理士・弁護士が日常的にM&Aを扱っているとは限らず、「知っている同業者に声をかけてみる」という形にとどまることが多いのが実情です。声をかけた時点で、その相手には売却検討の事実が伝わります。紹介を依頼する前に、NDAの締結と伝えてよい情報の範囲を取り決めてください。なお、株式譲渡と事業譲渡では課税の枠組みが異なり、手数料の税務上の取扱いも変わります。税務の判断は税理士にご確認ください。
同業の鑑定士からの声かけ
地元の鑑定士仲間に直接相談する方法もあります。相手が業界を理解しているため、専任鑑定士要件や公的評価の論点で話が早いのは大きな利点です。反面、断られた場合にその事実が業界内に残ります。また、当事者同士だけで価格を決めると根拠のない金額で合意してしまいがちです。価格の考え方は 鑑定会社はいくらで売れるのか を参照してください。
事業承継・引継ぎ支援センター(無料・全国)
各都道府県に設置された公的な相談窓口で、相談は無料です。中小企業基盤整備機構の公表によれば、令和6年度の第三者承継(譲渡)の成約件数は2,132件と過去最高を更新し、相談者数は2万3,000者を超えています(出典: 独立行政法人中小企業基盤整備機構 令和7年5月30日公表資料)。
公的機関であるため中立性が高く、費用がかからない点は明確な利点です。一方、士業事務所のような小規模・無形資産中心の案件に特化しているわけではありません。「まず制度と相場観を知る」という目的であれば、最初の窓口として合理的です。
3つの窓口を比較する
3つの経路を、先に挙げた3つの軸で整理します。
| 窓口 | 守秘 | 費用 |
|---|---|---|
| M&A仲介会社・FA | NDA前提で管理される | 最低報酬の水準次第 |
| マッチングサイト | 掲載内容の管理は自己責任 | 売り手は無料〜低額が多い |
| 士業・同業の紹介 | 紹介先には検討事実が伝わる | 原則無料(成約時の報酬は別途) |
| 事業承継・引継ぎ支援センター | 公的機関として管理される | 相談無料 |
スピードの観点では、仲介・FAが最も短く、マッチングサイトは反応の有無に左右され、紹介と公的窓口は相手候補の数に依存します。
実務的には併用が現実的です
排他的に選ぶ必要はありません。想定されるケースとして、地方で鑑定士2名・売上4,000万円の事務所が、まず事業承継・引継ぎ支援センターで制度と相場観を確認し、並行して業界を理解している仲介者に匿名で打診する、という進め方があります。ただし、仲介契約の専任条項に抵触しないかは事前に確認してください。契約を結んだ後に他の窓口を併用すると、契約違反を問われる可能性があります。
完全成功報酬の中身を読み解く
費用の不安を解くには、「完全成功報酬」という言葉が何を指しているのかを確認する必要があります。
「完全」が意味する範囲を確認する
完全成功報酬とは、成約に至らなければ費用が発生しない体系を指します。確認すべきは、着手金・中間金・月額報酬・企業評価費用・資料作成費用のそれぞれがゼロかどうかです。「成功報酬型」と名乗りながら着手金や月額報酬を別に請求する体系もあるため、項目ごとに書面で確認してください。
算定基準で金額は大きく変わる
同じ料率でも、何に掛けるかで金額は変わります。譲渡価額(株式譲渡なら株式の譲渡対価)を基準とする株価レーマン方式に対し、総資産や移動総資産を基準とする方式では役員借入金などの負債も算定基礎に含まれます。鑑定会社は負債が小さいことが多いため、株価レーマン方式のほうが実態に合いやすいと当社は考えています。
当社の料率と手数料の試算
当社は中小M&Aガイドラインの趣旨に沿い、相談無料・着手金0円・中間金0円の完全成功報酬として、次の料率を契約前に開示しています。
| 譲渡価額 | 成功報酬(税別) |
|---|---|
| 2,000万円以下 | 一律150万円(最低報酬) |
| 2,000万円超〜1億円以下 | 7% |
| 1億円超〜5億円以下 | 5% |
| 5億円超 | 3% |
この料率で、譲渡価額ごとの手数料と手取りを試算します(税別、他の費用は考慮しない単純計算)。
| 譲渡価額 | 成功報酬 | 手取りの目安 |
|---|---|---|
| 1,500万円 | 150万円 | 1,350万円 |
| 3,000万円 | 210万円 | 2,790万円 |
| 8,000万円 | 560万円 | 7,440万円 |
最低報酬を150万円に設定しているのは、譲渡価額が数百万円から2,000万円の小規模事務所でも手取りが残る水準にするためです。一般的な最低報酬500万〜2,500万円と比べてください。料率表と算定例は 手数料 に掲載しています。
契約条項と税務は専門家へ
専任条項・テール条項(契約終了後の直接取引を制限する条項)・中途解除の条件は、後から効いてくる法律上の論点です。仲介契約書は締結前に弁護士にご確認ください。手数料の税務上の取扱いや譲渡所得の計算は税理士にご確認ください。
まとめ
鑑定会社の売却で最初に決めるべきは、価格ではなく相談先です。守秘・スピード・費用のどれを優先するかによって、選ぶべき窓口は変わります。要点を振り返ります。
- 守秘を最優先するなら、NDAを前提に動く仲介・FA、または公的窓口から始める
- 費用を最優先するなら、マッチングサイトや公的窓口が入口になるが、情報管理と相手の選別は自己責任になる
- 鑑定業者登録の承継・専任鑑定士要件・公的評価の引継ぎを理解している相手かどうかで、交渉の手戻りが決まる
- 「完全成功報酬」は着手金・中間金・月額報酬がすべてゼロかを項目ごとに確認する
- 算定基準(株価レーマンか総資産基準か)と最低報酬の水準を、契約前に書面で受け取る
- 仲介契約の専任条項を確認しないまま複数窓口を併用しない
後継者が見つからないまま時間だけが過ぎているオーナー鑑定士様、事務所の拡大を検討されている譲受側の鑑定会社様、そして顧問先の事業承継を相談されている税理士・弁護士の先生。最初の一歩は、価格を決めることではなく、信頼できる窓口を一つ選ぶことです。当社は不動産鑑定士が直接担当し、手数料を契約前にすべて開示しています。鑑定会社の売却・承継・買収をご検討の方は、秘密厳守の無料相談をご利用ください。ぜひ一度ご相談ください。無料相談はこちら。売却をご検討の方は 売却をご検討の方へ、全体像は 鑑定会社M&Aの完全ガイド をご覧ください。
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執筆者
吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士
外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。
不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
鑑定会社の売却・買収・承継を、同業の鑑定士に相談する
相談無料・完全成功報酬・秘密厳守。会社名を伏せたままでも構いません。
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