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鑑定業法・登録・税務読了 約8分

鑑定業の名義貸しはどこからアウトか?引退後に名前だけ専任・代表に残るリスクと正しい関与の形

鑑定業の名義貸しはどこから違反か。名前だけ代表に残ることは原則問題ない一方、実態のない専任鑑定士や関与しない鑑定評価書への署名は監督処分・罰則の対象になりえます。引退後の適法な関与の形とM&Aでの確認点を不動産鑑定士が整理します。

鑑定業の名義貸しは、鑑定会社を売った後や後継者に譲った後に起きやすい問題です。「引退はするが、しばらくは登録上の名前だけ残してほしい」「専任の鑑定士がすぐ見つからないので、前代表の名前で届出を続けたい」。事業承継やM&Aの場面で、こうした相談は珍しくありません。

結論から言えば、会社の代表取締役として名前を残すこと自体は、鑑定評価法上の問題にはなりません。代表者が不動産鑑定士である必要はないからです。問題になるのは、勤務の実態がないのに「専任の不動産鑑定士」として名前を残すこと、そして名前を残した鑑定士の名義で、実際には別の人が鑑定評価を行うことです。前者は事務所ごとの専任設置義務(第35条)に反し、後者は罰則のある違反に当たりえます。

ここでは、私たち鑑定士が条文と国土交通省の公表資料から、どこまでが適法な関与で、どこからが名義貸しになるのかを整理します。そのうえで、売り手・買い手それぞれが取るべき体制の作り方を示します。

鑑定業の名義貸しとは何を指すのか

宅建業法のような「名義貸し禁止条」はない

宅地建物取引業法には、自己の名義で他人に宅建業を営ませることを禁じる明文の規定があります。一方、不動産の鑑定評価に関する法律(以下「鑑定評価法」)には、同じ形の条文は置かれていません。

だからといって、鑑定業で名義貸しが許されるわけではありません。鑑定評価法は、登録の仕組み・専任の設置義務・鑑定士以外による鑑定評価の禁止・鑑定評価書への署名という複数の規定で、「名前を出している人が実際に責任を持って業務を行う」ことを求めています。名義だけの関与は、このいずれかに触れます。

鑑定業で問題になる3つの「名前だけ」

名前を残す場所鑑定評価法上の扱い主なリスク
代表取締役・役員鑑定士である必要はない会社法上の役員責任(鑑定業法上は原則問題なし)
事務所の専任の不動産鑑定士常勤・専らの実態が必要専任設置義務違反、監督処分
鑑定評価書の署名者実際に関与した鑑定士が署名鑑定士でない者による鑑定評価、懲戒・罰則

この表のとおり、「名前だけ代表」と「名前だけ専任」はまったく別の問題です。相談の場面では両者が混ざって語られることが多いため、まずここを切り分けてください。

名前だけの専任鑑定士はなぜ名義貸しになるのか

第35条が求める「専任」の中身

法人の鑑定業者は「不動産鑑定士でない鑑定業者」に当たるため、すべての事務所に専任者が必要です。国土交通省の「不動産鑑定業者(国土交通大臣登録)の登録等手続Q&A」(令和3年11月1日)は、専任の不動産鑑定士を、その事務所に常に在籍・常勤し、専らその事務所の鑑定評価業務に自ら実地に従事する者と説明しています。他の法人の代表取締役や常勤役員の業務に専ら従事している人は専任と認められず、遠隔地に住む場合は通勤の事実を示す書面も求められます。

つまり、引退して月に数回顔を出すだけの前代表、遠方に転居した前代表、別会社の経営に専念している前代表は、名簿に名前があっても専任の実態がありません。

名前だけ専任を続けた場合に起こりうること

専任の実態がない状態は、第35条の要件を欠いている状態です。鑑定評価法は、この法律に違反した鑑定業者に対して、戒告、1年以内の業務の全部または一部の停止、登録の消除という監督処分を用意しています。登録を消除されると、消除の日から3年間は登録を受けられません。

さらに、専任者が実際には替わっているのに変更の登録を怠ったり、変更の登録で事実と異なる申請をしたりすれば、30万円以下の罰金の対象となりえます。この罰則には、行為者だけでなく法人も罰せられる両罰規定があります。

鑑定評価書の署名と「鑑定士でない者による鑑定評価」

もっと重いのが、名前を残した鑑定士の名義で、鑑定士資格のない職員や外部の人が実際の評価作業をしているケースです。鑑定評価法は、鑑定士でない者が鑑定業者の業務として鑑定評価を行うことを禁じ、鑑定業者がそれを行わせることも禁じています。違反には6月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められ、行わせた側には法人への両罰もあります。

鑑定評価書には、その鑑定評価に関与した鑑定士が資格を表示して署名しなければなりません。関与していない案件に名前だけ署名すれば、名義を貸した鑑定士自身も、不正または著しく不当な行為として懲戒処分(1年以内の業務禁止や登録の消除)の対象になりえます。断言します。鑑定業の名義貸しで最も重い責任を負うのは、名前を貸した鑑定士本人です。

想定されるケース:名前だけ専任で事務所を譲り受けた場合

前提

売上4,000万円、営業利益800万円の鑑定会社(知事登録、事務所1か所)を、鑑定士のいない不動産会社が株式譲渡で譲り受ける場面を想定します。前代表A氏(70歳代)は「顧問として残る」ことになり、専任の鑑定士としての登録もA氏のまま据え置かれました。実際の出社は月2〜3回で、日常の評価作業は勤務鑑定士B氏が担当しています。数値は比較のための仮の設定です。

適法な体制と比べた損得

項目名前だけ専任のままB氏を専任に変更外部から専任を採用
追加の人件費(年)0円B氏の処遇改善 約100万円約900万円
登録上の問題専任の実態なしなしなし
発覚時の影響業務停止・登録消除のおそれ該当なし該当なし

名前だけ専任のままにすれば、目先の人件費は0円です。しかし仮に6か月の業務停止を受ければ、単純計算で売上は約2,000万円失われます。加えて、金融機関や官公庁の取引先から、処分歴のある業者として依頼を見送られるおそれがあり、その影響は停止期間を超えて続きます。登録が消除されれば、3年間は同じ会社で鑑定業を再開できず、買収そのものの意味がなくなります。年100万円の処遇改善で済む話を、事業全体のリスクにすり替えているのが「名前だけ専任」の実態です。

買い手側にも責任が及ぶ理由

株式譲渡では、法人格と登録がそのまま引き継がれます。譲渡前から続いていた名前だけ専任の状態は、譲渡後は買い手が経営する会社の違反状態になります。「前の代表がやっていたこと」という言い分は、監督処分の場面では通りません。売り手に対しては、表明保証(取引の前提となる事実が正しいことを相手に約束する条項)で専任の実態を保証させ、違反が見つかった場合の補償を定めておく必要があります。条項の設計は表明保証と補償の線引きで詳しく扱っています。

引退後の適法な関与の形と、名義貸しにしない体制の作り方

前代表が残るなら「常勤の専任」か「専任でない関与」かを決める

前代表が譲渡後も関わる方法は、大きく2つに分かれます。1つは、一定期間は常勤の役員または従業員として残り、実態のある専任を続ける形です。もう1つは、顧問・非常勤取締役・非常勤の鑑定士として関わり、専任には別の鑑定士を置く形です。

関与の形専任になれるか向いている場面
常勤の役員・従業員なれる(常勤・専らの実態が条件)並走期間の前半、後任の育成中
非常勤取締役・会長なれない対外的な信用の橋渡し
顧問契約(業務委託)なれない顧客の紹介・相談対応
非常勤の鑑定士なれない(関与した案件には署名できる)公的評価や得意分野の評価を続ける場合

非常勤でも、実際に関与した鑑定評価には鑑定士として署名できます。問題は「非常勤であること」ではなく、「非常勤なのに専任として登録していること」です。並走期間の組み立て方は鑑定事務所の並走期間の設計をご覧ください。

売り手が退任前にやっておくこと

  • 専任を降りる日を決め、その日から逆算して後任の専任者(社内の勤務鑑定士または採用者)を確保する
  • 後任が決まったら、遅滞なく変更の登録を申請する
  • 自分が関与しない案件には署名しないことを、職員と買い手に明言する
  • 第35条の2週間は急な欠員のための是正期間です。計画的な退任の穴埋めには使わない

買い手がデューデリジェンスで確認すること

デューデリジェンス(買収前の詳細調査)では、登録簿の記載と実態が一致しているかを書類で確かめます。

  • 専任者の出勤記録、給与・社会保険の加入状況(常勤性)
  • 専任者の住所と通勤手段、他法人の役員兼任の有無(専らであるか)
  • 直近の鑑定評価書の署名者と、作業記録上の実際の担当者の対応
  • 登録簿の役員・専任者・事務所の記載と、現状の一致

譲受後に誰を専任に据えるかの3パターンは鑑定業者の専任要件を買収後も満たすにはで比較しています。

専門家・行政庁への確認

専任の要件や変更登録に必要な書類の運用は、登録行政庁(地方整備局等または都道府県)によって異なる場合があります。役員としての責任や表明保証・補償条項の文言は弁護士に、前代表の報酬や退職金の税務上の取扱いは税理士にご確認ください。

まとめ

鑑定業で名前だけ代表に残ることは原則として問題になりませんが、名前だけ専任に残すこと、関与していない鑑定評価に名前を貸すことは、監督処分や罰則につながる名義貸しです。

要点を振り返ります。

  • 代表取締役は鑑定士でなくてよい。「名前だけ代表」と「名前だけ専任」は別の問題として切り分ける
  • 専任は常勤・専らの実態が必要。月数回の出社、遠隔地居住、他法人の経営専念では満たせない
  • 実態のない専任は第35条違反として戒告・業務停止・登録消除の対象になり、登録消除後3年間は再登録できない
  • 鑑定士でない者に鑑定評価をさせ、名前だけ署名するのは罰則のある違反で、名前を貸した鑑定士本人も懲戒の対象になりうる
  • 株式譲渡では違反状態も買い手に引き継がれる。専任の実態は表明保証とデューデリジェンスで確かめる

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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の案件に対する助言ではありません。記載の価格・相場は目安であり、実際の譲渡価額は個別の交渉により決まります。税務・法務の具体的な判断は、税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。

鑑定業者の登録や専任の不動産鑑定士、公的評価の扱いまで含めた承継の全体像は鑑定会社のM&A・事業承継のページでまとめています。

吉田 健人

執筆者

吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士

外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。

不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士

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