事業承継税制の期限はいつまで?特例措置は2027年まで、鑑定会社が今から取れる選択肢
事業承継税制の特例措置は、特例承継計画の提出期限が令和8年度改正で2027年9月30日に延長され、まだ使えます。ただし贈与・相続の適用期限は2027年12月31日のまま。鑑定会社が期限内に使う場合の注意点と、期限後に取れる選択肢を鑑定士が整理します。
「事業承継税制の特例は、もう期限が切れたと聞いた」。オーナー鑑定士の方から、こうした声を耳にすることがあります。結論から申し上げます。事業承継税制の特例措置は、2026年10月の時点でまだ使えます。ただし期限は確実に近づいており、手続の入口である「特例承継計画」の提出期限は2027年9月30日、贈与・相続そのものの適用期限は2027年12月31日です。
誤解が広がった理由ははっきりしています。もともと特例承継計画の提出期限は2026年3月31日でしたが、令和8年度税制改正で1年6か月延長されました。延長前の情報だけを見て「終わった」と判断してしまうと、本来使えたはずの制度を見送ることになりかねません。
この記事では、私たち鑑定士の立場から、事業承継税制の期限を時系列で整理し、期限内に使う場合・期限後に備える場合のそれぞれについて、鑑定会社が取れる選択肢を並べます。なお、私たちは税理士ではありません。制度の適用可否や具体的な税額は、必ず税理士にご確認ください。
事業承継税制の期限を時系列で整理する
特例措置と一般措置の違い
事業承継税制(後継者が先代経営者から非上場株式を贈与・相続で取得したときに、その株式にかかる贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の要件のもとで免除する制度)には、「一般措置」と「特例措置」の2つがあります。
一般措置は期限のない恒久的な制度です。一方、特例措置は平成30年度税制改正で10年間の時限措置として設けられたもので、主な違いは次のとおりです。
| 項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 猶予の対象となる株式 | 議決権株式の3分の2まで | 全株式 |
| 相続税の猶予割合 | 80% | 100% |
| 後継者の人数 | 1名 | 最大3名 |
| 雇用確保要件(5年平均8割) | 未達で猶予打ち切り | 未達でも報告書提出で継続可 |
特例措置は、株式の全部について税負担をゼロに近づけられる点で、一般措置とは使い勝手がまったく違います。「期限がいつまでか」が問題になるのは、この特例措置のほうです。
法人版の期限は「提出2027年9月」「適用2027年12月」
特例措置には、性質の違う2つの期限があります。混同しやすいので、表で整理します。
| 期限の種類 | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| 特例承継計画の提出期限 | 都道府県知事への計画提出 | 2027年9月30日(延長後) |
| 適用期限 | 贈与・相続の発生時期 | 2027年12月31日 |
| 個人版の計画提出期限 | 個人事業承継計画の提出 | 2028年9月30日(延長後) |
| 個人版の適用期限 | 贈与・相続の発生時期 | 2028年12月31日 |
令和8年度税制改正で延長されたのは計画の提出期限だけで、適用期限は延長されていません。つまり、計画を2027年9月までに出しても、贈与(または相続)が2027年12月31日までに起きなければ特例措置は使えません。相続の時期は選べないため、実務上は「期限内に贈与を実行するかどうか」が判断の中心になります。
なお、特例承継計画は認定経営革新等支援機関(国の認定を受けた税理士・金融機関など)の指導・助言を受けて作成します。贈与を実行した後に、都道府県への認定申請と併せて提出することもできますが、提出期限を過ぎれば特例措置の入口が閉じます。
令和7年度改正で後継者の役員要件も緩和された
従来、贈与で特例措置を使うには、後継者が贈与の日まで引き続き3年以上役員であることが求められていました。令和7年度税制改正により、特例措置の贈与について、この役員就任要件は「贈与の直前に役員であること」へ緩和されています。
鑑定会社では、子どもや職員を役員に入れていないケースが少なくありません。これまでは「今から役員にしても3年後では期限に間に合わない」と諦めざるを得ませんでしたが、緩和後は期限内の贈与が現実的な選択肢になり得ます。ただし後継者の代表者要件や同族での議決権要件など、他の要件は残っていますので、適用可否は税理士にご確認ください。
鑑定会社で事業承継税制が使える場面・使えない場面
使えるのは「株式を渡して経営を続けてもらう」承継
事業承継税制は、後継者が株式を引き継ぎ、代表者として会社を続けることが前提の制度です。後継者は親族に限られないため、子どもへの親族内承継だけでなく、勤務鑑定士など職員への社内承継でも対象になり得ます。承継の類型ごとの比較は 鑑定事務所の承継3類型 をご覧ください。
一方、他の鑑定会社や異業種へ株式を売却する第三者承継(M&A)では、オーナーは対価を受け取って株式を手放すため、相続税・贈与税の納税猶予という論点自体が生じません。この場合の課税は、個人株主なら株式の譲渡所得として約20%という枠組みになります。詳しくは 鑑定会社を売ったときの税金の枠組み で整理しています。
後継者が鑑定士でなくても税制上は使えるが、登録の壁は別
税制上、後継者が不動産鑑定士である必要はありません。しかし鑑定業を続けるには、事務所ごとに専任の不動産鑑定士(その事務所に常勤し、専らその業務に従事する鑑定士)を置かなければなりません(不動産の鑑定評価に関する法律第35条)。
鑑定士でない子どもが株式を承継して代表に就く場合、専任鑑定士を別に確保できるかが事業継続の前提になります。税制の要件を満たしても、専任鑑定士が退職すれば鑑定業そのものが続けられなくなる点は、他業種にない鑑定会社特有のリスクです。
猶予の打ち切り(期限確定事由)に注意する
納税猶予は「免除」ではありません。贈与・相続後の5年間(経営承継期間)に、後継者が代表者を退任した、株式を譲渡した、同族での議決権が過半数を割った、といった事由が生じると、猶予されていた税額を利子税とともに納める必要があります。5年経過後も、株式を譲渡すれば原則として譲渡した部分に対応する猶予税額の納付が求められます。
「ひとまず子どもに株式を移し、数年後にM&Aで売却する」という使い方は、この打ち切りと正面からぶつかります。将来の第三者承継の可能性が少しでもあるなら、税制を使うかどうかを先に決めず、出口の見通しと合わせて税理士と検討してください。
想定されるケースで比較する
ケース: 子どもが勤務鑑定士として在籍している法人
都内の鑑定会社(鑑定士3名)で、代表70歳、長男が勤務鑑定士として在籍しているケースを考えます。自社株の相続税評価額にかかる相続税相当額が、仮に1,200万円だったとします(数値は説明用の仮定です)。
| 選択 | 株式にかかる税の扱い(単純化した目安) | 主な条件 |
|---|---|---|
| 特例措置で期限内に贈与 | 1,200万円全額が猶予の対象 | 2027年12月末までに贈与、計画は2027年9月末まで |
| 期限後に一般措置 | 3分の2×80%で約640万円が猶予、残り約560万円は納付 | 期限なし、雇用要件が厳しい |
| 制度を使わず相続 | 1,200万円を納付 | 制約なし |
実際の猶予税額は相続財産全体の構成で計算が変わるため、上の表はあくまで差の大きさをつかむための目安です。それでも、期限内か期限後かで、後継者が負担する可能性のある金額が数百万円単位で変わり得ることは分かります。
ケース: 継ぐ親族も職員もいない事務所
後継者候補がいない場合、そもそも事業承継税制の出番はありません。このときに検討すべきは、第三者承継(M&A)か廃業かです。期限を気にして無理に親族へ株式を移すと、後継者が鑑定業を続けられず、結局は売却や廃業に至り、猶予の打ち切りだけが残るおそれがあります。
期限後に鑑定会社が取れる選択肢
特例措置の期限に間に合わない、あるいは使わないと決めた場合でも、選択肢がなくなるわけではありません。
一般措置と生前贈与の組み合わせ
一般措置は期限のない制度として残ります。猶予の範囲は狭くなりますが、使えなくなるわけではありません。また、暦年贈与や相続時精算課税を使って、時間をかけて株式を移す方法もあります。ただし令和5年度税制改正により、暦年贈与の相続財産への加算期間は3年から7年に段階的に延長されており、駆け込みの贈与では効果が限られる点に注意が必要です。どちらを選ぶかは、税理士にご確認ください。
役員退職金と自社株評価の関係
役員退職金を支払うと、会社の純資産が減り、自社株の評価額が下がることがあります。退職金を受け取る側にとっても、退職所得は分離課税で退職所得控除がある仕組みです。ただし不相当に高額な部分は法人の損金として認められない扱いがあるため、金額の妥当性が論点になります。
第三者承継(M&A)という選択肢
後継者がいない、あるいは後継者に株式を渡しても鑑定業が続かない場合、第三者承継が現実的な選択肢になります。売却すれば、オーナーは対価を現金で受け取り、事業承継税制の打ち切りリスクとも無縁です。何から始めるかは 鑑定会社のM&A完全ガイド にまとめています。
鑑定士の視点で見る自社株評価の落とし穴
純資産価額方式では会社の不動産が効く
非上場株式の相続税評価は、財産評価基本通達に基づき、類似業種比準方式(同業種の上場企業の株価を基に比べる方法)や純資産価額方式(会社の資産から負債を引いた額で測る方法)で行います。小規模な鑑定会社では純資産価額方式の比重が大きくなることが多く、会社が所有する事務所ビルや土地の評価が株価を左右します。
取得から3年以内の不動産は「通常の取引価額」
純資産価額方式では、会社が保有する土地・建物は原則として相続税評価額(路線価など)で計算しますが、課税時期の前3年以内に取得・新築した土地・建物は通常の取引価額で評価します(財産評価基本通達185)。承継の直前に会社で不動産を買うと、思わぬ形で株価が上がることがあるのです。
相続税評価額と時価は別物
自社株の相続税評価額は、M&Aでの譲渡価格とは別物です。M&Aでは年買法などで譲渡価格の目安を考え、交渉で決まります。事業承継税制を使うか、売却するかを比べるときは、相続税評価額と想定される譲渡価格の両方を並べることが判断の出発点になります。譲渡価格の考え方は 鑑定会社の売却相場と年買法 をご覧ください。
まとめ
事業承継税制の特例措置は、まだ使えます。ただし残された時間は長くありません。
要点を振り返ります。
- 特例承継計画の提出期限は令和8年度税制改正で2027年9月30日に延長されたが、適用期限(贈与・相続の時期)は2027年12月31日のまま
- 個人版は計画提出期限が2028年9月30日、適用期限が2028年12月31日
- 特例措置の贈与では、後継者の役員就任要件が「贈与の直前に役員」へ緩和された
- 鑑定会社では、税制の要件とは別に専任鑑定士(第35条)の確保が事業継続の前提になる
- 猶予は免除ではなく、代表退任や株式譲渡で打ち切られる。将来M&Aの可能性があるなら出口と一緒に検討する
- 期限後も、一般措置・生前贈与・退職金の活用・第三者承継という選択肢は残る
子どもや職員に事務所を継がせるか、第三者に託すかを決めかねているオーナー鑑定士様、そして顧問先の鑑定会社から承継の相談を受けている税理士の先生方は、期限から逆算して今のうちに方向性を固めることをおすすめします。税制の適用可否や税額は、必ず税理士にご確認ください。
当社は不動産鑑定士として、第三者承継の可能性も含めた出口の比較を、税務の専門家と連携しながらお手伝いします。鑑定会社の売却・承継・買収をご検討の方は、秘密厳守の無料相談をご利用ください。無料相談はこちら。承継の進め方は 事業承継をご検討の方へ もご覧ください。
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鑑定業者の登録や専任の不動産鑑定士、公的評価の扱いまで含めた承継の全体像は鑑定会社のM&A・事業承継のページでまとめています。

執筆者
吉田 健人代表取締役社長・不動産鑑定士
外資IT企業で法人営業に従事するかたわら、不動産鑑定士として株式会社KRE Appraisalを設立。鑑定実務と外資ITの営業・M&A支援の経験を活かし、不動産鑑定会社のM&A・事業承継を支援している。
不動産鑑定士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士
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